川崎エッセイ 新・大阪もののけ紀行 その14  妖怪タソガレ     HOME

 何かの祟りか。わしは体調を崩した。
 八尾への取材前夜、膀胱炎に襲われたのじゃ。
 しかし回復してからも体調が悪く、伊丹から八尾へ出向く自信なく、取材地をひと駅先の塚口に変更してもらった。
 わしが八尾へ出向くことを嫌がる妖怪の仕業かもしれぬ。
 または塚口へとわしを誘う妖怪がおるのかも…と、思いながら、重い身体で阪急塚口駅に降り立つ。
 この駅前は記憶にない赤ん坊時代から来ておるゆえ、鮮度はなけれども、病み中の頭で見る景色の中に闇が見えそうな気配する。
 助手のガンジーといつものように取材前に喫茶店に入る。駅のこちら側は巨大なショッピングビルが城塞のごとく聳えており、喫茶店もテナントで入っておる。
 わしらは、地下にある高級喫茶チェーン店にて雑談に耽る。
 そうしている間に、わしを塚口へと招いた妖怪が近づく気配を感じる。
 わしは暗闇でも写せるナイトショットカメラを取り出し、そして立ち上がった。
 ガンジーは喫茶店雑談だけでもののけ紀行を終えるのではないかと、心配していたようじゃが、まだ歩くだけの体力は残っておる。
 その気配なるものに引っ張られるように、ショッピングビルの各階フロアを探索する。
 エスカレーターでの移動から階段に切り替えた時、ものの気配が濃くなった。
 それは階段の踊り場でしゃがんでいた。ガンジーにも見えるようで、彼も立ち止まる。気配ではなく、そのものが居る。つまり、見えしは妖怪にあらず。人なり。
 その人はしゃがんだ状態にて新聞を読んでおった。逆にわしらの姿が見えぬのか、全く反応を示さぬ。
 現実の同じ場所に居ながら、新聞を読む男は、別次元の空間におわすのだ。
 わしらはその階段を上りきると、そこは最上階らしく、似たような黄昏を見ておる男が座っておる。
 その先を見ると等身大の人形二体が出迎える飲食店。しかし、中は営業しておらぬのか明かりはない。
「シャイニングみたいですなあ」
 ガンジーが言うとうり、営業しておれば華やかなレストランの賑わいが、聞こえて来そうな趣。
 わしらは、しんみりしながら、その棟を降り、隣の棟へと向かう。
 タソガレ…
 わしを招いたのは、この妖怪やもしれぬ。精神的にも肉体的にも、社会的にも黄昏れた時、この妖怪タソガレが入り込むと聞く。
 それはクールダウン系の妖怪にて、沈静作用をもたらし、現実の有り様を装飾なく見せてくれるらしい。
 帰り道、映画館前でオカルト映画の看板を見る。釈由美子の立ちポーズ。
 しかし、わしの近くにおるタソガレには効果がないようじゃ。
 駅の改札が目の前にあるが、わしはタソガレに誘われるまま、線路伝いに歩き、踏切を渡り、反対側へ出た。
 そこは、古い商店街が駅まで続いており、今まで見たショッピング街のフロアとは明らかに違う次元の景色。
 下町のネオンが灯り、果物屋や時計屋が並びし「等身大の店構え」に、なにやらほっとする思いがした。
 妖怪タソガレ、たまにはその妖怪に浄化してもらうのも悪くはなかろう。


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