川崎エッセイ 絵解き世間之事情 その2 外食      HOME

 僕の町内では、数件あった大衆食堂や喫茶店がここ十年の間に消えている。そのため「ちょっと食事を」と、気楽に入れる店がなくなった。食事ができる店はあるのだが、フランス料理店や、飲み屋さんだったりする。特に一人だと、どちらも気楽には入れない。

 何かうまいものを食べたいという感じではなく、胃に何かを入れたいだけの場合、できるだけ質素な店が好ましいのだ。

 その種の店がなくなったので、仕方なく飲み屋さんに行くことにした。看板に「お食事どころ」の文字があるので、食事だけでも可能なはずだ。

 店内に入ると、やはりそこは飲み屋さんだった。テーブル席もカウンター席も、飲んでいる人ばかりだ。大衆食堂で、黙々とご飯を食べている人々の感じではなく、空気まで躁状態になっている。

 飲んでいない客は誰もいない。だが、メニューを見ると野菜炒め定食やコロッケ定食の文字がはっきりと記されているので、安心して注文する。

 隣に陣取ったグループは、上司や同僚の噂話で盛り上がっている。つまり、酒の席で本音に近い発言を、気持ちよさそうに吐き出しているのだ。もちろん一人静かに飲んでいる客もいるが、酔いが気持ちよく回っているためか、その場の雰囲気に溶け込んでいる。いずれも飲んで、気分よく過ごしている人達なのだ。

 ただお腹を満たしたいだけで、野菜炒め定食を食べている自分が、ものすごく地味な存在になり、この場を白けさせているのではないかと、心配になってしまった。

 ご飯が食べたいのなら、コンビニで弁当を買えばすむことだが、ちゃんとした食器で、ちゃんと食べたいのだ。毎日外食している者にとって、外食は華々しいものではなく、日常の延長にある地味な存在なのだ。

 ああ、静かにご飯が食べたい。


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