川崎エッセイ 吹田もののけ紀行 その14  妖怪ペドロ     HOME

 阪急下新庄駅で降り、線路沿いに歩くと神崎川に出る。その橋を渡ると吹田市だ。
 妖怪はこのような境界線に生息する。特に川沿いには、河童や水鬼が古典的妖怪として有名だが、この時代には無理だ。
 神崎川、この川はいっときドブ川よりひどい川だった。わけの分からない浮遊物が浮かび、悪臭を漂わせていた。
 時代の曲がった勢いが、それらを垂れ流していたのだ。そのころ発生した妖怪ペドロが、未だに川底に住んでいるかもしれない。
 だが、土手や川岸には野草が生え、景観は悪くない。川面に浮遊物もなく、藻さえ浮かんでいる。
 これでは妖怪ペドロは絶滅したかのように見えるが、この時代の怖さは、見てくれの綺麗さとは裏腹に、見えない汚染が隠されていることだ。時代も賢くなり、簡単には正体を現さない。
 川沿いにテニスコートがあり、のどかにプレーしている。だが、それを土手の上から見ているホームレスがいる。
 護岸の壁には、妙な落書きが描き込まれ、何かの怨念が漂っている。
 川岸には散歩道が作られ、ランニングしている人々もいる。鉄橋を通過する阪急電車。大阪市側に建つビル群。そこには問題は、何も起こっていないのだが、この日常が、いつ何処で、崩れるかもしれないぞ…と、川底で、生き残った妖怪ペドロが囁いているように思えた。

 


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