小説 川崎サイト

 

バーチャル戦士

川崎ゆきお



 吉田は現実とバーチャルの境界線が曖昧になっている。
 吉田はゲーマーで、オンラインゲームをずっとやっている。これはバーチャルな世界である。
 昼間は会社で仕事をやっている。これは現実だ。
 しかし、吉田の魂というか、メインはゲーム世界、バーチャル世界にある。この世界にいるときの方が自分らしいのだ。
 会社で仕事をやっているときの自分は死んでいる。まるで機械のように無機的な働き方をやっている。
 だから、現実とバーチャルの境界線が曖昧なのではなく、はっきりと分けられていると言うべきだろう。
 吉田は夜な夜な入り込んでいる世界は、パソコンを使った機械的な世界だ。デジタル的な世界なのだが、逆に昼間の会社での仕事の方が機械的だ。
 それは感情移入の問題だろうか。現実では感情を押し殺し、機械人形のような動き方だ。表情も能面のように変化がない。言葉も少ない。
 そういう生活を数年続けているうちに、これは、昔なら何に当てはまるのかと考えてみた。
 ゲーマーになったのはここ数年のことで、それまではオンラインゲームは存在していなかった。
「何だろう」
 もう三十が見えてくる歳になり、二十歳代の頃を思い出す。ゲームの代わりになにをやっていたのかだ。
「ああ、あれか」
 それはパチンカーだった。
 つまり、ギャンブラーだったのだ。しかし、負けが込むと、現実に響く。給料日まで一円もない日が続くと苦しい。勝ち負けは現実の問題になる。
 吉田は、ギャンブルを辞めるために、パソコン上でやるパチンコゲームで遊んだ。
 これなら、負けても問題はない。現実に響かない方がいいのだ。なぜなら、吉田は負けの多いギャンブラーだったからだ。
 ゲーマーは現実には響かない。
 吉田はいろいろなゲームをやるうちに、不特定多数の人とやるRPGオンラインゲームにたどり着いた。
 今では、仲間と一緒にギルドを作り、ベテランの戦士として活躍している。
 職場ではほとんどコミュニケーションしないくせに、ゲーム内でのギルドでは、後輩の世話をしたり、他のギルドと戦ったり、朝方までかかって巨大モンスターをみんなで倒したりしている。
 吉田のパーソナリティーはバーチャルな世界で、やっと発揮された感じだ。

   了


2009年7月6日

小説 川崎サイト