小説 川崎サイト

 

強い思い

川崎ゆきお



 ある思いが人を動かすことがある。
 より強く思い、願ったものが勝利を得る話が噂されている。なぜ噂かと言えば、証明できないためだ。そのため、教条主義的な意味合いが強い。これは悪くはない。話としては。
 大前田の場合、最初それを信じていた。その方が調子がいいためだ。自分を鼓舞するのに役だった。その物語にのっかる感じだ。
 だが、数年すると、その魔法が切れる。
 その理由は友人の吉本にあった。彼とはライバル関係だが、親しい友達で、互いのことを語り合う中だ。
 では、なぜ魔法が切れたのかというと、大前田より、吉本の方が成績がいいことだ。
 そして、大前田の物語が通じない。なぜかというと吉本はあまり熱心ではないからだ。つまり、夢や希望に対しての願いや、思いがそれほど強くない。適当に流すようにやっている。それなのに、大前田よりよい結果を出している。
 そうなると、願いの強さなど関係がないのではないかと考えてしまう。問題は本人の心の持ち方では決まらない。別のところで、決まってしまうようなのだ。
 吉本にそのことを聞いたことがある。本当は自分よりも強く願い、強く信念を持っているのに、それを隠しているのではないかと。
 だが、どうも隠している風には思えない。その態度を見ても、目が輝いているとか、やる気がみなぎっているとは思えない。
 元々眼球が輝いているのは、涙で常に濡れている人ではないかと、思ったりする。小さく細い目の人なら、輝いているようには見えないだろう。
 しかし、覇気のような元気さは態度で見えるので分かりやすい。だが、吉本は動きが鈍く、ハキハキもチャキチャキもしていない。それなのに、成績は大前田よりもよい。
 そのため、強い思いを持とうが、強い希望を持とうが関係なさそうだ。
 人間としての賢さや、仕事に関しての巧みさなどは、最初から差があり、いくら願おうと差は縮まらない。
 そう内省した大前田は、もう張り切ることをやめた。
 仕事も貪欲にやらなくなった。正しくは意欲的に……だ。
 そうすると成績が上がった。
 半年ほどで吉本と肩を並べるまでになった。
 結局、大前田はよけいなことをしていたわけだ。
 世の中は考えている以上に、甘く行くものなのだ。

   了

 


2009年7月11日

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