小説 川崎サイト



闇からの囁き

川崎ゆきお



「托鉢で回っている雲水は分かる」
「はい」
「近くに寺があるはずだ」
「テレビで見たことがあります。京都だったかも」
「山伏や修験者になると、また違う」
「はい、話を戻しましょう」
「私が合っのは都心のターミナルだった」
「その人とですね?」
「そうだ」
「で、どちらだったのです?」
「修験者だったと思う」
「では、仏教系と神道系に分ければ、後者ですね」
「だと思う。お寺さんが駅前まで来て声などかけんだろ」
「お坊さんはたまにに見かけますね。でも移動中なんでしょうね」
「闇が見えると言ってきた」
「作田さんのですね?」
「そうだ、私の心の闇が見えると」
「誰にでも心の闇はあるものなんでしょうね」
「そうだ」
「で、何が見えると」
「闇の中身さ」
「修験者だから言える言葉ですねえ」
「そうだ。そして、その闇の中身も当たっていたような気がした」
「占いと同じなんでしょうね。誰にでも当てはまる心配事とかがあるものですよ」
「ドライな人だった。お金ではないかと聞いてきた。心の闇、悩み、そのキーワードが金だと」
「それも、誰にでも当てはまりますねえ」
「確かに困っていた。だが、僅かな金額だ。それが用意出来れば、悩みの九分九厘解決する」
「金がないのは、首がないに等しいと、どなたかおっしゃってましたからね」
「修験者に言い当てられても、何の解決にもならん。だから、無視して立ち去ろうとした。ところが、解決方法があるという。それも、今すぐにでも解決すると」
「はいはい」
「私も馬鹿じゃない。会社の帰りにバイトでも行こうかと思っていた。やりたくはないがね。必要な金は自分で稼ぐさ。しかし、そう思いながら、行こうとしない私がいる」
「で、話に乗ったのですね」
「そうだ」
「借りたお金や利子は返す必要はありませんよ」
「最初、闇がどうのと言ってたときに、気付くべきだった」
 弁護士は必要な書類を作り始めた。
 
   了
 
 
 
 

          2006年05月11日
 

 

 

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