小説 川崎サイト

 

二つのブログ

川崎ゆきお



 吉田は以前竹中のブログを見た。半年ほど前のことだ。
 その中で、近所の駅前の喫茶店の話が出てきた。ブログ作者竹中が書いたもので、ほとんどが日記だ。それで、竹中が登場する時間帯にその喫茶店に入り、声をかけたことがある。
 そのときの竹中の話によると、こういうブログを書いても、誰も見に来る人はいない。アクセス解析を仕込んでいるが、来訪者は本人だけのように思える。これでは世界に向け公開していないのと同じだ。それでもブログを書く癖ができてしまったので、毎日日記をアップしている。まさか、読んでいる人がいて、出会えるとは思ってもいなかった。
 と、いうことだった。それが半年前だ。
 吉田は竹中の日記には興味はなく、その人柄にも興味はなかったので、その後、ブログを見ていない。
 実は、吉田も竹中と同じ状態で、毎日日記を書いているが、読者はいない。それで、同じ状態なので、興味を抱いただけだ。
 さて、半年ぶりにアクセスすると、竹中のブログは生きていた。まだ、続けているようだ。
 自転車がパンクしたとか、百均で虫ゴムを買ったとか、そう言う内容が、毎日綿々と続いていた。相変わらず続けているのだ。
 そして、駅前の喫茶店には毎日行って新聞や雑誌を読んでいるようだ。
 吉田も似たようなもので、誰も読まないブログを書いている。だから、竹中の存在は大きい。そういうブログの使い方をやっている人もいるからだ。
 竹中のブログのコメント欄やトラックバック欄を見ると、何もない。誰からもコメントがないのだ。それも吉田と同じだ。
 吉田は次の朝、駅前の喫茶店へ入った。半年ぶりだ。
 竹中の日記通りだと、モーニングサービスが始まると同時に入っていうようだ。だから、その時間にあわせた。
 そして、二人は半年ぶりに再会した。
「ああ、あのときの」
 竹中は吉田のことを覚えていたようだ。
「まだ、ブログ、やってるんですねえ」
「癖でね。日記を上げるのが日課になってしまいましたよ」
 二人とも互いのブログを見ていないようだ。吉田も半年ぶりに昨日見たにすぎない。
 二人は、ブログに関する話で盛り上がった。
 翌日、吉田は竹中のブログを見に行った。昨日喫茶店で会ったことは書かれていなかった。
 そして、吉田も竹中と会ったことは書いていない。

   了


2009年8月5日

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