小説 川崎サイト

 

お天気老人

川崎ゆきお



「涼しくなりましたなあ」
 もう秋だ。
 夏に比べ、涼しくなるのは当たり前だ。
「そうですねえ」
 二人の老人が話している。
「昔はねえ」
「はあ、昔は」
「昔は、こんなこと言わなかった」
「いや、私は言ってましたよ」
「小学生の頃もかね」
「さすがに、そんな時代は」
「そうでしょ。年寄り臭い」
「そうそう、天気なんて、問題じゃなかったですよね」
「若い頃はもっと具体的な挨拶だったように思うなあ。景気がどうだとか」
「あれどうなった。とかね」
「うんうん、内容が挨拶だったね」
「知ってる人とはね」
「でも、年寄りから挨拶されることがあったなあ。いい天気で、とか」
「あったあった。今、私がやってるよ」
「天気話が挨拶の場合、小学生から見れば大人の世界だったなあ」
「大人もすぎて、リタイヤすると、ネタがないんで、天気の話するしかない」
「いや、天気は大事ですよ。低気圧がくると体が重くなる。体調も悪くなる。これは問題だよ。重大ごとだよ」
「だから、そのレベルに下ったってことなんだ」
「下るって?」
「特に気にすることがないと言うかな」
「気になることはあることはあるけど、まあ、どうにもならん愚痴のようなものだしな。アクティブなことじゃない」
「そうだね、特に活動的な暮らしじゃないし」
「で、今日の天気はどうなんだろうね」
「こりゃもう秋と断言しても過言ではない」
「私もそう断定しました」
「では、異議なしと言うことで」
 二人は同意を得たことで満足を得た。

   了




2009年8月25日

小説 川崎サイト