小説 川崎サイト

 

諦める男

川崎ゆきお



 岸和田は諦める男で、何事もすぐに諦めてしまう。諦めてしまうのは頑張らないからで、これは、無駄な頑張りだと思い、努力しない。
 夢もすぐに諦めてしまい、今は今日中にかなう程度の夢しかない。世間ではそのレベルのことを夢とは呼ばない。
 希望を持っても裏切られるので、身近な望みしかない。
「君は中学の時、器械体操で選手だったじゃないか」
「はい、そうでした」
「試合には出たのかね」
「大会ですか」
「そう、試合でも大会でも何でもいい、選手なら出ただろ」
「出ました」
「結果は?」
「市の大会で五位に入りました」
「凄いじゃないか、それを続けなかったのかね」
「五位ですよ。市で五人目ですよ県じゃ何十人目ですよ。もっとも五位では県大会にまで行けませんが」
「それで、いつものように諦めたのかね」
「諦めるも何も、無理ですよ。練習しても追いつけないものがあるんです」
「夢を持ち、希望を持ち、努力するようなことはなかったのかね」
「それこそ、無駄な努力ですよ。かなり頑張っても市で五位から四位になれる程度です。これって、評価されませんよね」
「まあそうだが、君の場合、万事がそうだ。途中ですぐに諦めてしまう」
「普通の発想だと思いますが」
「それじゃ、夢がないだろ」
「全くかなわないことをやるのは、どうでしょうか」
「私が言いたいのは、覇気が欲しいと言うことだよ」
「空元気ですね」
「ああ、嘘でもいいから、大きな夢に向かっているような態度が欲しいんだ。それで、周囲も盛り上がる」
 岸和田は上司に言われ、嘘の夢を作り、それを演じた。上司の願いを聞き入れたのだ。
 夢とは嘘をつくことだと、思うしかない。

   了


2009年9月14日

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