小説 川崎サイト

 

手持ちぶさた

川崎ゆきお



 篠山はファストフードの店でコーヒーを飲んでいた。二人掛けのテーブルで、一人静かにしている。
 コーヒーを飲みにきたのではない。休憩しにきたのだ。
「手持ちぶさた」これを最初に感じた。すぐにではない。コーヒーを一口含み、たばこに火をつけてからだ。
 横のテーブルは歓談中で、篠山と同じような年輩客は新聞を読んでいる。別の一人客は本を開いていたり、ケータイをいじったりしている。
「手持ちぶさた」
 やはり、これだ。
 休憩に入り、コーヒーを飲んでいる。客としてふつうのはずなのだが、自分だけ浮いているよう思えた。
 その証拠に目が浮いている。合わせるべき視点がない。なにもしていないのだから、どこに目をやってもかまわないが、目を当てる場所がないのも困りものだ。
 コーヒーを飲んでいるときは、なにをやっているのかは明瞭だ。しかし、ずっと飲み続けるわけにはいかない。そんなことをすれば、すぐにネタが切れる。
 だから、コーヒーを飲みながら何らかの行為が必要なのだ。
 しかし自分は休憩で座っているだけで十分で、それが最大の目的だ。
 しかし、気になる。
 自分だけ、なにもしていないことが気になるのだ。
 篠山にアイデアが生まれた。それは長年通勤電車でやっていたことだ。つまり、目を閉じてしまえばいい。
 だが、電車内での居眠りはよく目にする光景だが、ファストフード店でそれは可能かだ。
 別に居眠りがしたいわけではない。眠くはないのだ。
 そのため、すぐに目が開いてしまった。むしろ目を閉じるほうが苦痛だ。
 そんな苦しいことをしにきたのではない。ちょっと座ってゆっくりしたいだけだ。コーヒーも別に飲みたくはない。注文しないと座れないからだ。
 結局、そういうことを考えている間にコーヒーも飲んでしまい、たばこも三本吸ってしまった。もう十分休憩は終わっている。
 店を出た篠山は軽い疲労感を覚えた。

   了



2009年10月31日

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