小説 川崎サイト

 

禁忌道

川崎ゆきお



 いつもの藤田の散歩コースだ。住宅地をすり抜けてゆく。散歩中は足の動きが気になる。風景はいつもと違う変化はないが、体長の変化は日替わりだ。
 足取りの軽重が問題になる。政治問題ほどの問題性はないが、今、気になる事柄は、しばらく頭の中で常駐する。それでも歩き方の問題より大きな問題が現れたとき、脳裏から去る。
 今朝はやや足取りが重い。体調を崩したというほどのものではないが、やや風邪気味で微熱があるようだ。わずかな熱なので、歩けないほどではない。しかし、これが重大な病気へ至る兆候かもしれない。それを考えると、今朝の足取りの重さは重大問題へと繋がる。何らかの病気になるのはふつうのことだが、藤田は今ここで入院とかはしたくない。これもまた、個人的な問題にすぎないのだが。
 微熱があるのはよくある。いつの間にか治っている。今回もそうなるだろうと、楽観気味だ。
 歩き方だけを問題にし、体調だけを試すために歩いているようなものだ。
 健康のためにやっている散歩なので、目的はそこにある。だから、体調を気遣って当然だ。
 それは内部からきている。
 しかし、内部から重大事が発生するとは限らない。歩いている最中、車にひっかけられればそれまでだ。一瞬で決まる。
「それよりも……」と、藤田は四つ角で考える。
「なぜ右折で直進ではないのか」
 これは、直進すると、遠くまで行ってしまうためだ。それはわかっている。
「しかし」
 本当は車道を越えた先に見える道が気に入らないのだ。渡るのが嫌なのではない。車はほとんど通っていない。また、遠くまで行きすぎてしまうことでもない。
 一度、その道を歩いたことがある。直線コースなので、そのまま進む方が自然だ。今まで歩いていた道の延長なので、住宅地の風景も似ている。
 しかし、踏み込んではいけないような嫌な感じがするのだ。
 藤田は道路の向こう側で、ポカリと口を開けた道を禁忌道と名付けている。
 ただ、この道は体調や気分により、禁が解かれる日があるので、わけがわからない。

   了



2009年11月2日

小説 川崎サイト