小説 川崎サイト

 

妖精の羽

川崎ゆきお



 植林だが放置されている。誰かの山であることは確かだが、野生の息吹は感じられる。元々この山の斜面に自生していた植物が息を吹き返したのだろう。
「妖精の羽」
 土田が探しているアイテムだ。
 がさっと音がする。笹が動いた。
 人影が現れる。
「妖精」
 土田が思わず声を出す。正体の分からないものに対し、名を言うことで、整理するつもりだろうか。または相手の正体は分かっているのだと伝えるためだろうか。
 人影は姿を現した。土田と年格好も服装も似ている。山に入り込んでいるのだが、二人とも軽装だ。普段着と言ってもいい。
「君も?」
 男が訊ねる。
「僕もって、何が?」
「だから、妖精の羽でしょ」
 こんなものを探しているのは自分だけかと思っていた。
「そうなんだろ」
「まあ」土田は認める。
 これで、何となく妖精の羽の正体が分かったような気がした。
「あなたも試験ですか」
「そうだ」
「偶然ですねえ」
 同じ場所で探していることに、偶然性を土田は見いだした。
「まあ、寺の北西と言えば、このあたりだからね。まあ、うんと遠い北西もあるけど、まずは近くから探すでしょ」
「何なんでしょうね」
「妖精の羽かい」
「はい」
「適当に野鳥の羽でも持って帰ればいいんじゃない」
「僕もそれを考えました」
「そうだろ。妖精が見つかりゃいいけど、そんなのいない。きっとその妖精に羽が生えているんだろうけど、妖精なんているわけない」
「無茶ですね、この試験」
「無理だよ」
「おそらく試験官は僕らが何を持ち帰ってくるのかで採点するつもりですよ」
「そんなもの存在しないと言うのもいいかもね」
「でも、目的は持ち帰ることですよ」
「ないものは持ち帰れないよ」
 男はポケットから羽を取り出す。
「カラスの羽だ。これやるよ」
「それは妖精の羽じゃないでしょ」
「どうやら試験を受けているのは二人だけのようだ。同じ解答でいいんじゃない」
「でも、カラスは妖精じゃないでしょ」
「カラス天狗とかいるじゃない」
「カラス天狗って、妖精ですか」
「近いじゃない。近い解答でいいだよ」
「そうですね。無理な試験なんですから、最初から」
「そうとも」
 結局二人とも不合格になった。
 社員を雇う気が最初からなかったのだ。

   了


 


2009年11月5日

小説 川崎サイト