小説 川崎サイト



猛獣

川崎ゆきお



 A社とB社に担当者がいる。業務は同じだ。
 有川は両方を仕事で訪れる。
 A社はいいが、B社は苦手だった。担当者の違いで、その差が発生する。
 A社の人とはすんなりいくのだが、B社では時間がかかる。
「納期に間に合って当たり前。今回は無事だったけど、ギリギリじゃなかったの?」とか、余計なことをB社の人は言ってくる。
 A社の人にはそれがない。そっけないが簡単に仕事が終わる。
 B社の人はたまには飲みに行かないかと誘ってくる。プライベートな付き合いを強要される。断っても問題はないが、何度も誘われると辛い。毎回断るのが辛いのだ。
 一度飲みに行ったことがある。顔はいかついが気さくな人で、社内の諸々の裏事情まで教えてくれる。
 有田は得意先の担当者とのプライベートな付き合いということで、自腹を切って飲み代を払うが、安い店なので大した額ではない。
「仕事って、人と人の関係で出来ているんだよ。そう思うだろ」
「そうですねえ」
「だから、こういうことが大事なんだ。あんたの前の人はねえ、そういうことに気が回らなくてさあ、だから、あんたに替わったんじゃない?」
「そういうわけではないですが、宮内は役付きになり、外は回らなくなっただけです」
「それは意外だなあ。あんな奴ほど出世するんだ。うちにもいるよ、不人情な奴ほど出世するんだ」
 B社の人は好物のキスの天麩羅を食べながら、綿々と語り続けた。
 有田はその経験から、二度と一緒に飲みに行くまいと思った。悪い人ではないのだが、そのペースについて行けなかったのだ。
 A社の人は、そんなことをしなくても仕事はスムーズだった。
 この違いは何だろうかと有田は考えた。担当者の違いで、これだけの幅がある。
 上司に相談すると、人柄の違いだけらしい。
「語りが多い人がいるんですよ。人間通の人でね、余計なことまでペラペラ喋らないと気がすまない動物なんですよ」
「動物なんですか?」
「吠えたり、唸ったり……と、まあ猛獣ですよ」
 有田はB社の人の顔が老いて薄汚れたライオンのように見えた。
 
   了
 



 

          2006年05月26日
 

 

 

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