小説 川崎サイト



ニートストーン

川崎ゆきお



 村田恒一はかなり考えたつもりだった。会社は三十までもたなかった。会社が潰れたのではなく恒一が潰れた。
 幸いまだ結婚はしてない。と、いうより相手さえいないのだから身軽だった。
 そのことも含めて人間関係でしくじったような気がする。会社でヘドが出るほど泥臭い芝居を続けることに自己嫌悪を覚えた。
 一年ほどはのんびりと暮らし、精神状態も落ち着き、自分のペースで生活出来るようになったが、生活費は何一つ稼いでいなかったので、大人の男としての生活ではない。むしろ生活出来ていないと言ったほう正しいだろう。
 蓄えが気になりだしたとき、いろいろ考えた。結局はお金がなくなるので、稼ぐ方法を編み出さなくてはならない。
 しかし、もう会社はりごりだった。結論的には人間関係が発生しにくい仕事を探すしかない。
 恒一は殆どニートのような生活をしている。ニートという社会的に認められた状況があるわけではない。しかし、仲間が多いことで居心地はよかった。
 恒一の精神状態が悪化しなかったのはニートと言う言葉のお陰だった。
 ネットショップを開き、握り石を売ることを考えたのはそのためだ。
 握り石を手の中でぐっと握ると意志が強くなる。癒し石ではなく、こぶしを握るため、頑張ろうという気になるのだ。
 恒一は近くの川で小石を拾い始めた。ちょうど握れるほどの大きさのものを探した。そういうものはいくらでもあった。
 拾ってきた小石を洗い、磨いていると非常に気持ちが落ち着いた。そしてこれは単なる慰安ではなく、商品を磨く作業なのだから、仕事をしている安心感もある。
 恒一はホームページを作り、フリーのショッピングカートを設置し、デジカメで写した石を並べた。
 恒一が一番恐れていたことは真似されることだ。握り石販売が流行すると、競争相手が多くなり、売上げが減ると心配した。
 元手は殆どかかっていない。商品は無尽蔵にある。
 そしてネットショップを開業した。
 名のある石ではなく、素朴な川の小石だが、地球も星なら、その星のかけらを握ることで、宇宙のパワーを吸入する……とかのコピーを作った。これは宗教ではなく素朴な石信仰と結び付けた。
 開設から三カ月経過したが、一つも売れなかった。
 しかし、恒一は今も売れるような工夫を続けている。
 ある日、握り石で検索をかけると、おびただしい数の握り石ショップが出来ていた。真似られたのだ。
 恒一が投げた一石は千石万石となったのだ。
 
   了
 


 

          2006年05月28日
 

 

 

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