小説 川崎サイト

 

枝分かれの道

川崎ゆきお




 洞窟のような渓谷だ。空は見えるが蓋が閉まっていないだけのことだ。
 洞窟内は迷路のようになっている。
 若き望遠者が前へ前へと進んでいく。少し進むとすぐにモンスターが出現する。二本足で歩く巨大な猿のような動物だ。
 冒険者は軽く倒す。それほど強い敵ではない。その冒険者がかなり強いためだ。他の冒険者なら、モンスターに手こずり、先へ進めないかもしれない。
 その先の道は三方に枝分かれしている。冒険者は右端を選んだ。迷ったときは右を選ぶのが癖のようだ。
 しばらく進むと道幅が狭くなり、空が見えなくなる。本物の洞窟のように岩に囲まれてしまった。
 さらに進むと、先ほどと同じモンスターが出現する。これも簡単に片づけた。
 どうやら枝道らしい。下手をすると行き止まりだ。戻ろうとしたとき、人の気配を感じた。道の先で話し声が聞こえたからだ。
 それが人間の声なら、これが本道かもしれない。
 さらに近づくと人の姿が見える。数人いる。
 開けた場所があり、こぶのように膨らんでいる。そこに人が集まっている。
 どうやら袋小路らしい。出口が見あたらない。
「やあ」
 冒険者は適当に声をかける。
 彼らも冒険者のようだ。数人でキャンプを張っているのだろうか。
 それを聞いてみると、違うらしい。
 どうやら定住しているようだ。キャンプにしては荷物が多すぎるのだ。
「ここは行き止まりだよ」
 頭も髭も真っ白な男が言う。年輩者が多い。
「渓谷を抜けて、次の村まで行こうと思っているのですが」
「あ、そう」
 彼らは冒険の途中、ここで止まってしまったようだ。もう先へ行く気力を失い、ここで暮らすことにしたらしい。
「どうしてですか」と、聞くと、きりがないからだという。
「進んでも進んでも、同じことの繰り返しなんだよ。どこかで落ち着きたいんだ。ここに来るまでに猿のようなモンスターを見ただろ。あいつは、ああいうふうに進化した。頭は猿よりも悪い。その割には道具を使う。棍棒を手にしていただろ。あいつなりに進化を遂げたんだが、そこで行き止まりだ。幹じゃなく枝なんだな。だから、あいつはずっとあのままだよ」
 冒険者はその猿と、この袋小路にいる連中を重ねてしまった。
 そして、大量の食料をもらい、居住空間から出た。
 自分はあんな感じにはならないと思いながらも、将来を見たような、嫌な気がした。

   了


2009年12月22日

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