小説 川崎サイト

 

彼岸のお迎え

川崎ゆきお




 地道が続き、その沿道に菊の花が咲き乱れている。
 大磯は自分が死んでいるのか、または死につつあるのだろうと意識できた。
 周囲を見渡すと野原だ。青い空で雲一つない。地平線が見えるが、山は見えない。
 大きな平野なのだろうか。しかし、所々に木立が見える。
 地道を進むと小川に出る。川幅が狭いわけではない。かなり広い。しかし流れが穏やかなので、小川をそのまま広げたように見えてしまう。
 船着き場があり、船頭らしい男が横に立っている。
 大磯はそのまま小舟に乗る。公園のボートより、少し大きい程度だ。
 船頭が船を出す。
 対岸の船着き場にかなりの人が並んでいる。縦ではなく横に並んでいる。
 船が近づくと、年寄りが多い。
 その中に何十年前かに死んだ祖父と祖母がいる。祖父はスーツ姿で、祖母はドレスを着ている。
 他の老人はおそらく先祖だろうか。仏間にあった先祖の写真とそっくりだ。羽織袴だ。
 あの世であることは間違いない。
 そうか、死ぬとこんな感じになるのかと大磯は嬉しくなった。
 しかし、ふと疑問を感じた。なにも知らないので、様子が分からないだけかもしれないが、その疑問がどんどん頭を回転させた。
 祖父のスーツはどこで売っているのだろうか。
 大磯は自分の服装を見た。パジャマ姿だ。
 船頭は漁師のような恰好をしている。これもどこで売られているのだろうか。または作っている人がいるのだろうか。
 先祖の羽織袴もそうだ。呉服屋がこの世界にあるのだろうか。
 しかし、さらに古い先祖の姿も見える。帯刀している。
 これはかなり幅が広い。刀鍛冶がいるはずだ。しかしそれだけでは刀は作れない。鉄が必要だろう。
 小舟は近づく。
 大磯の疑問は解けない。こんな野原にクリーニング屋や呉服屋や靴屋があるとは思えない。
 この「どこで買うのだろうか」
「どこで売っているのだろうか」の疑問というか、疑惑がピークに達したとき、大磯は目が覚めた。
 ただの夢だったようだ。

   了


2009年12月25日

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