小説 川崎サイト

 

存在しない原画

川崎ゆきお




 画廊の親父が絵の制作を依頼した。
 近隣の画家、すべてに依頼している。
 依頼はするが買い取りではない。画廊で売れた場合に支払うと言うものだ。
 そのため、書き下ろす必要はない。画家が持っている絵でもよい。
 浜田にも電話がかかってきた。
「絵はないけど」
「じゃ、何でもいいですから、書いてもらえませんか。郷土の画家を一堂に集める大展覧会です。是非協力してください」
 浜田は画家ではないので、大した絵は書けないと告げた。
「画家だと聞いてますよ」
「まあ、絵は書けますが」
「じゃ、お願いします」
 浜田は引き受けた。
 その画廊へも行ったことがない。
 電話の声は不動産屋の親父のように聞こえた。似たような職種ではないが、画家も家だ。この家は屋号のようなもので、不動産が扱う家ではない。
 それでも何となく似た感じがする。
 浜田は百均で画材を買い、適当に色を塗り、ほぼ一瞬で仕上げた。それ以上書き込むような絵ではなかったのだ。
 いつもは簡単なイラストを書いている。雑誌の豆カットのようなものだ。
 しかし、画廊から画家として依頼を受けたことが嬉しい。また、展示されるのだから。
 浜田はすぐに宅配便で原画を送った。
 翌日、すぐに画廊の親父から電話が入った。
「絵が届いていないのですが」
「送りましたよ。翌日配達のはずですから、届いているはずですよ」
「ああ、それは届いているのですが」
「届いたでしょ」
「すぐに書いていただいて、ありがとうございます。ところが、届いていないのですよ」
「宅配ですよ。青い色の封筒で送ったのですが」
「はい、その封筒で届きました」
 それなら、絵は届いているのだ。
「絵が入っていないのです」
 浜田は原画を厚紙二枚で挟んでいた。
「よく探してください」
「隅から隅まで探しましたよ」
 浜田は原画を入れ忘れているのではないかと、部屋を見た。
 書いた後、乾かし、厚紙で挟み、封筒に入れたこと記憶している。間違いはない。
「厚紙の間に入っていませんか」
「ああ、下絵は入っていましたが、原画は入っていません。間違って、下絵の方を送られたのじゃないかと」
「探してみます」
 浜田はとっさにそう答えた。
 あれが、原画なのに……とは、言えなかった。

   了

 


2010年1月19日

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