小説 川崎サイト

 

妖しの祠

川崎ゆきお




 農具入れとしては小さい。犬小屋のような四角い建物だが、壁板がはがれ、中が丸見えだ。
 農道はアスファルトで舗装されているが、草の勢いが強いのか、こちらも諸処はがれている。
 小屋はその農道の膨らみの上にある。
 壁板の隙間から覗くと横向きの石像が見える。正面の扉には鍵がかかっている。その南京錠は錆び付き、粉を吹いている。
 扉は細かな格子で三センチ間隔に上下左右に走っている。腕は入らないが、木の枝なら突っ込める。それで、石像に触れることも可能だろう。
 しかし、南京錠は壊れており、扉は簡単に左右に開く。
 つまり、放置された石像のある祠だ。
 石像は人間くさい顔で、地蔵さんなどの仏様とは趣が違う。高僧の像かもしれない。
 この人がどんな人だったのかは、もう知る人はほとんどいない。だから放置されているのだ。
 きっと、この村でいいことをした人で、それを記念して作ったものだろう。
 その扱いはお地蔵さんと同じだ。神仏と同格だが、寺の本尊ではなく、道ばたの祠だ。
 功徳のようなものがあったのだろうが、その効用はとっくに終わり、信仰の対象からも離れたようだ。
 信心深そうな村の老人たちも興味がないのか賽銭箱もなく、花立てや水飲みもない。
 こうして、注目を引かなくなった祠には、妖しいものが住み憑くらしい。
 その気配があるのか、村人はますます寄りつかなくなる。関わりたくないのだ。
 祠は農道に建てられており、いわば公道だ。そして、誰の持ち物でもない。
 妖しき何かが住み着いているはずだが、特に怪異はないようだ。
 きっと静かな化け物なのだろう。

   了

 


2010年1月21日

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