小説 川崎サイト

 

閉じずのドア

川崎ゆきお




 部屋に入ったとき、何かいつもと違うと君原は感じた。
 築二十年のワンルームマンションだ。引っ越してから半年になる。どうせすぐに出ていくので、適当な部屋でよかった。そのため、部屋には興味がなく、ただの寝床として使っているようなものだ。
 自分の住処なので、より快適なように模様替えをしたり、とかはやっていない。
 だから、普段から部屋には興味を示していない。気にもしていない。
 ところがその日、会社から帰宅し、ドアを開けた瞬間違和感を覚えたのだ。
 部屋にだ。
 真っ先に考えたのは自分の部屋ではなく、別の部屋に入ったのではないか……だったが、それなら鍵が開かないはずだ。
 すると何だろう。
 部屋が変なのではなく、自分が変なのかもしれない。
 その変さ加減は落ち着かないと言うことだ。しかし、具体的な変化ではない。それだけに犯人を見つけるのは難しい。
 いつもと違う何かがこの部屋にある。
 と、言うことは妙なものが入り込んでいる気配のようなものを感じたためだろうか。
 そちらへ答えを求めるのは、君原の発想で、幽霊のようなものを信じているためだ。
 それなら、引っ越した当日から出るはずだ。
 分からない。
 靴脱ぎ場からは流し台が見える。ドアが二つあり、一つはユニットバス、もう一つは居間だ。
 まずユニットバスのドアを開けることにした。電気のスイッチを入れ、一気に開くが、何もない。違和感はあるが、具体的な変化はない。
 そして、居間のドアを開ける。
 ここで君原はやっと気づいた。
 それは、いつもこのドアは開けっ放しのはずなのだ。それが閉まっている。
 鍵を持っているのは君原だけだ。管理人が入り込んだのだろうか。このマンションには管理人はいない。すると家主だろうか。
 君原は、そのドアを開ける。
 特に変わったところはない。
 君原はドアを見た。
 閉まっている。
 開けきっても戻るドアなのだ。
 では、いつもどうして閉まっていないのだろう。
 いつも開いていることが逆に変なのだ。
 君原の留守中、ドアを開ける何物かがいるのだろうか。
 
   了
   
   


2010年3月18日

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