小説 川崎サイト

 

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川崎ゆきお




 牧田は二千人からフォローされ、二千人をフォローしている。ネット上でのつぶやきブログでの話だ。
 そして、牧田はリアルでは誰からもフォローされていない。また、誰もフォローしていない。
 牧田その日に起こった些細ごとをこまめに書き込んでいる。腹が痛いだの、テレビドラマが終わっただの、スーパーで卵は安かったなどだ。
 それに対しての返事は誰もしない。二千人がフォローしているのに、反応は何もない。
 トントンとノックの音。
 牧田を一方的にフォローしているリアルの友人の来訪だ。
 黒岩はたまに訪ねて来る。
 牧田は黒岩を好んでいない。しかし、リアルで繋がっているのは、この黒岩だけかもしれない。
 黒岩が牧田を相手にするのは優越感を味わいたいためだ。そのため、その会話の多くは黒岩の自慢話になる。牧田はそれを聞くのはいやだ。しかし、いやだとは言わないで、聞いているふりをする。どこまでが本当のことなのかはわからない。牧田は作った作り話のようなものかもしれない。
 全くの虚構ではなく、それに類するような出来事はあったのだろう。それを黒岩が自分風にアレンジして話しているのだ。主人公は黒岩なのだ。
 黒岩は今日も自慢話を始めた。
 本当は、自慢でも何でもない出来事だったのかもしれない。牧田が知らないだけの話だ。
 黒岩の話に出てくる登場人物を黒岩はリアルでは知らない。黒岩が作ったキャラのようなもので、黒岩を通して見た人物なのだ。だから、黒岩の話の中に出てくる人物なので、リアルは違うかもしれない。ただ、架空の人物ではなさそうなことは何となくわかる。
 牧田より黒岩の方が優れている。だから、黒岩は牧田の前では気持ちがいいだろう。優位な立ち位置のためだ。
 しかし、世間一般から見れば、黒岩のレベルはかなり低い。おそらく最底辺ランクだろう。牧田よりはましなのだが。
 黒岩が勝てる相手として、牧田は貴重な存在なのだ。
 黒岩は一人だけ盛り上がった状態で帰って行った。
 リアルでのストレスを牧田のところで落として帰ったのだ。
 と、いうことは、牧田は黒岩をフォローしていることになる。
 話を聞いてやるから黒岩は来るのだ。
 ネット上ではフォローしている二千。フォローされているも二千だが、リアルではフォローしているが一人だけいることに牧田は気づいた。
 しかし、できればフォローしたくない一人なのだが、いないよりましだろう。
 
   了
   


2010年5月8日

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