小説 川崎サイト

 

長持ちする夢

川崎ゆきお




 あるイメージが人を動かす。
 あるイメージがなくなると動きにくくなる。
 どこへ向かっていいのかがわからなくなるからだ。
 決してそれで迷うのではなく、逆にあるイメージがあるときこそ迷っているともいえる。だから、あるイメージがなくなると、夢から覚めたような状態になる。
 吉村は今、そんな状態だ。
 つまり、目的を失ってしまったのだ。
 そういうとき、決まって訪ねる友達がいる。
 そして、実行した。
「また、あれかい」
「ああ、あれだよ」
 友達はもう知っている。吉村の精神状態を。
 そんなことでもない限りやってこないからだ。
「いつもいるとは限らないんだけどね」
「でも、いつもいるねえ」
 そういいながら、いつもの椅子に腰掛ける。この椅子も四年前に来た時と同じ場所にある。
「迷い病だろ」
 先に友達が話しかける。
「何か、よくわからなくなったんだ」
 吉村は夢から覚めたことを伝えた。
「もう、どうでもよいことのように思えて……」
「まともになったんだよ」
「いや、目的喪失だよ」
「悪い夢を見ていたんだよ。おめでとう」
「めでたいものか。やることがなくなってしょんぼりだよ」
「目的を持ち、夢を追いかけることが異常なんじゃない」
「どうして? それって、ふつうじゃないか」
「確かにそれで、目的はできるけど、これは曖昧でしっかりしていないと思うんだ」
「ちゃんと計画性を持ってやったよ」
「目的が先にあり、その過程に計画性を持つ。当然の話だ」
「そうだろ、ノーマルな行為じゃないか」
「しかし、目的って、なんだい」
「やりたいことじゃないか」
「それは、吉村君が勝手に思い描いた世界でしょ。だから夢のようなものなんだよ。従って土台が脆い」
「でも、目的がなければ、なにをすればいいのか、わからなくなるじゃないか」
「それで今、わからなくなったんだ」
「そうだよ」
「僕のせいじゃないからね」
「わかってる。自分が描いた夢なんだ。だけど、それが醒めてしまった」
「何かあったの?」
「ある日突然、原因もなく」
「だから、土台がが脆いと言ったじゃないか」
「そうだけど」
「じゃ、また目的、夢を持てばいいじゃないか」
「今度は、どんな夢がいいかなあ」
「前回相談を受けてから四年になるでしょ。四年持ったんだからロングセラーだよ」
「もっと長持ちする夢を教えてくれよ」
「ねえ、吉村君。夢は自分で見るものでしょ。君の中から立ちのぼってくるネタじゃないとだめなんだよ」
「それがないから毎回聞きに来てるんじゃないか」
 その友達は、新ネタを披露した。
 吉村は急に活気づいた。元気が出た。
「よし、それで行く」
 吉村はまた、夢を与えられ、夢の中に入れたようだ。
 
   了



2010年9月29日

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