小説 川崎サイト

 

家籠もり

川崎ゆきお



「大きな農家なんですが、誰もいないんですよね。いや、いることはいるんだけど、大丈夫なんです。見つかりゃしませんや」
 男は無理とに泥棒のような言葉遣いで喋っている。
 男は実際に泥棒で、その農家に何度も忍び込んだらしい。
「手伝いのおばさんがいるんだけどね。そいつが買い物に出かけたときが狙い目なんだよね」
「家の人は留守なのかな」
「三世帯住んでますよ。今時珍しい」
「じゃ、見つかるじゃありませんか」
「それが大丈夫なんだな。旦那」
「僕は旦那じゃない」
「刑事さんのような雰囲気がしたもので」
「僕が刑事なら話さないだろ」
「まあ、そうだけど」
「それで、何度も盗みを繰り返したのかい」
「私は素朴な空き巣でね。台所でご飯を食べる程度ですよ」
「君はホームレスだったねえ」
「だから、金目のあるもの盗んでも、身分証明するもの持ってないからね、売れないんだよ。盗品を買ってくれる人もいるようだけど、そんなルート知らないし、電化製品盗んでも、金、払わないと受け取ってくれないよ。本も盗んだけどね。重い思いして持っていっても弁当代も出ないよ」
「それはいいから、三世帯も住んでる家に、よく忍び込めるねえ」
「知りたいですかい旦那」
「ああ、是非」
「西の蔵に婆さん。その横の物置に爺さん。その息子が長屋門の二階。その奥さんは離れ。爺さんから見りゃ孫は昔の牛小屋」
「それは何ですかな」
「籠もってるんだよ」
「ああ、お籠もりさん家族か」
「私のカンだと、その爺さんの母親が、二階の上にある屋根部屋にいるようで」
「まだ、そんなものがいるのか」
「お嬢ちゃんもいるねえ。母屋の二階だ」
「他には」
「まだ、いるかもしれないけどね。家捜ししたわけじゃないから」
「全員お籠もり中なのかね」
「半年前から、そうだね。私が忍び込んだときから、そうだったよ」
「食べるものはどうするんだ」
「だから、手伝いの女がいてね。買い出しに行ってる。その女が世話しているんだよ。こいつが昼夜問わず出たり入ったりするから注意しないとダメなんだ」
「家の人にに見つかるだろ」
「目があっても知らん顔だよ。あっちの世界に行ってるんだ」
「そのお籠もり、いつまで続くんだろ」
「さあ、それはわからないねえ。東の蔵が空いていてね。私は最近そこで寝泊まりしてる」
「面白い話ありがとう」
「本当の話だよ。旦那」
「嘘だと言ってないだろ」
「旦那も籠もりに行くかい。案内するよ」
「そうだな、熟考が必要なので、腹が決まればお願いするよ」
 
   了


2010年11月28日

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