小説 川崎サイト

 

日課

川崎ゆきお



「風が強いですなあ」
「台風ですよ。これ」
「じゃ、この雨も台風の雨?」
「そうですよ」
「それにしては降りが弱いですなあ」
「近づいていますよ」
「何が?」
「台風ですよ。天気予報、見て出なかったのですか」
「朝、見ましたが」
「じゃ、台風が来るってわかっているはずじゃ」
「進路まで見てませんよ。それに予測でしょ。来ないことが多いですからなあ」
「それより、台風の時にどこへ」
「日課ですよ」
「そうなんですが」
「散歩なんです」
「自転車で散歩なんですか」
「まあ、移動です」
「あ、そう」
「あなたは?」
「私は見回りです」
「見回り同心」
「いやいや、安全安心巡回団です」
「団なんでしょ。一人じゃないですか」
「いや、別に大勢で練り歩くタイプじゃないので」
「そうですねえ、金魚の糞みたいにぞろぞろ行列作ってる場合、ありますねえ」
「あれは、大名行列というんですよ。うちの町内はそんなことはしない」
「そうですよ。あれはちょっとした武装集団ですよ」
「そんな大げさな、武器なんて持ってないですよ。それに年寄りが多いし」
「でも町内で、それだけの徒党を組んだ集団って、ちょいとした勢力ですよ。昔の消防団のように」
「雨風の日は集まりが悪くてねえ。今日は中止なんですが、私、スケジュール空けていたから、出ないと気が済まないんですよ」
「あ、それで一人で見回りですか」
「まあ、そういうことです」
「じゃ、僕は散歩の日課を続けますから」
「はいはい、私も見回りを続けます」
「台風なので気をつけて」
「はいはい、お互いに……」
 
   了



2011年5月30日

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