小説 川崎サイト

 

弱い連隊

川崎ゆきお



「ある師団が敵の軍団と戦うため兵を出そうとしていた」
「いつの話です。それに敵軍とは、どこですか」
「それは何でもいい。寓話なのだから」
「はい」
「ところが、戦地を転々とし、戦い続けている師団のため、出せる兵力がない」
「師団って、何人ぐらい兵隊さんがいるのです?」
「歩兵がメインの時代なので一万人ほどかな」
「はい、それで」
「旅団からの命令には従わないといけない。旅団とは旅のサーカス団じゃないよ。師団が三つか四つ集まった大きな軍団だ。何々方面軍ともいう」
「それで、話の確信は何です」
「その師団は、この旅団の中でも勇猛な師団で、いわば花形師団だ。一番強い師団なんだ。だから、旅団長、この場合作戦本部長だね、ここの大将が、その師団を頼りにしている。しかし、使いすぎて疲れきっておる」
「それで」
「しかし、その師団の中で強いのは第34連隊と呼ばれておる兵隊さんたちだ」
「連隊って何ですか?」
「まあ、地元の中学校程度の人数だ」
「じゃ、千人か二千人」
「まあ、そんなものだ。そういった連隊が複数集まって師団になっておる」
「もう、わからなくなりましたが」
「話を続ける」
「はい、どうぞ」
「その師団の中での強い連隊は磨耗し、人数も減っておる。活躍しすぎて減っているんだ。だから、これは使えない。そこでだ」
「ここが確信ですね」
「無傷の連隊があってな」
「はい」
「これを出すことにした」
「それだけの話ですか」
「なぜ無傷なのか。わかるか」
「知りません」
「弱い連隊なので、使いものにならんから、金魚の糞のようについてきているだけなんだ」
「じゃ、戦っていないから無傷なんですね。つまり、弱いことがメリットになり、生き延びれるって話ですね」
「今、言ったように、その弱い連隊に出撃命令が出た。これじゃ、生き延びれないじゃないか」
「そうですねえ」
「ギャネス峠に進出してきた敵部隊を阻止するため、その弱い連隊は向かった。この峠を越えられると本軍が危なくなる。敵はそれを知っていて、兵を入れたわけだね」
「じゃ、旅団はそんな弱い連隊に行かせななければいいじゃないですか」
「だから、一番強い師団に命じたんだよ。そこに抜かりはない」
「でも、実際に向かったのはその師団の中で一番弱い連隊でしょ」
「それで十分なんだ。何せ強い師団が向かっているというだけで、敵にプレッシャーを与えることができるからね」
「それでどうなりました」
「敵も、その強い師団が来るとわかり、精鋭部隊を投入した」
「結果は?」
「何の?」
「そのギャネス峠の攻防戦ですよ」
「それは、もう想像できるじゃないか」
「弱い連隊は全滅したのですね。当然ですよね」
「これは架空の話だ。戦闘そのものが存在しないのだからね」
「では、この寓話の肝は何ですか。どういう教訓が導かれるのですか」
「それを考えるのが、今日の宿題だ」
「宿題にしなくても、もう答えは出てますよ」
「じゃ、言ってみなさい」
「その弱い連隊、かわいそうだなあって」
「それだけか」
「はい」
 
   了


2011年6月15日

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