小説 川崎サイト

 

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川崎ゆきお




 都心部から一歩出たところに昔ながらの古い路地がある。しかし、それは今はもうあり得ない。そんな土地があるのなら、開発されているだろう。
 都心部の中の都心部。それはターミナル付近だろう。そこにちまちまと民家が建っているわけがない。
 しかし、その地下になると、趣が違ってくる。地上より野性的な何かがあるような気がする。だが、地下に土地を持っている人がいるだろうか。土地は地上にあり、その下が地下だ。まさか、地盤沈下で、地上に穴が開いており、それに蓋をして、地下が土地と言うこともあるかもしれないが、そんな不細工な偶然はないだろう。
 地下街、地下通路にあるテナントは、そこを借りている限り、そして消防法とかで許される限り、内装は自由だ。
 その地下のテナントを数カ所借りている男がいる。地下街も地下二階になると、借り手が少なくなる。しかも駅やメイン通りから離れた場所になると、閑古鳥が鳴いている。
 そこに昔ながらの路地を作った。ちょっとした飲み屋横丁のようなものだが、長屋も作った。フロアは土で固め、どぶを掘り、どぶ板もおいた。映画のセットのような作りだ。
 男はジオラマではなく、本物のサイズが欲しかった。
 そして、都心部から数歩ではないものの、徒歩五分ほどでいける路地裏を作ったのだ。都心のど真ん中にありながら、隠れ里のような路地を作ったのである。
 この地下二階フロアは飲食街というカテゴリー内にある。だから、居酒屋でもいいし、喫茶店でもいい。だが、内装は任意でかまわない。それをいいことに長屋や駄菓子屋を作った。長屋は居住空間だ。住宅と見なされる。そのため、長屋風喫茶としたのだ。畳の上に丸い折りたたみ式のちゃぶ台を置いた。まあ、いってみれば和風喫茶だ。茶店だ。しかし中はどう見ても長屋の家で、押し入れには布団まで入っている。雨戸もある。庭もある。
 男はその一室で寝起きしている。実際にはいけないことだ。地下街はある時間を過ぎるとシャッターが降りる。地下街の営業時間以外はオーナーでも立ち入れないのだ。
 この地下街は、地下通路ではなく、高層ビル群の真下にある。ビルの端は行き止まりだ。
 このビルの階上はオフィスビルだ。そちらは深夜でも人がいる。徹夜で仕事をしているオフィスもあるからだ。
 男は、今度はこの階上を狙っていた。今度は趣向を変え、江戸城大奥のようなものを作ろうと考えていた。
 
   了


2011年8月8日

小説 川崎サイト