小説 川崎サイト

 

不思議な中華屋

川崎ゆきお



 妙な立場にある中華屋がある。大衆食堂のような中華料理店だ。要するに中途半端な店だ。特にこだわりのラーメンがメニューにあるわけではない。餃子も一般的で、キャッチコピーのない。中華スープの種類も多いが、これも特徴のあるものではない。そして値段も安くもなく、特別高くもない。
 そのため流行っていない。
 店は夫婦で交代でやっているらしく、客が少ないので、二人で店に出ることはない。
 これで、家族が食べていけるのかと心配だが、土地も建物も自分のものなので、家賃はいらない。
 市場調査などをやっている武田が、不思議に思うことが起こっていた。武田は通勤途中に観察していた、仕事柄気になるのだ。
 それは半年ほど前に出来た中華のチェーン店が、古い中華屋の近くに出来たことだ。
「これで終わりだな」
 武田は、いつ中華屋のシャッターが閉まりっぱなしになるかを気にしながら見ていたのだが、それが不思議なのだ。潰れないのだ。
 中華チェーン店は、小さな店で、本店の支店ではなく、個人が看板借りをしているような店だ。
 有名なチェーン店でテレビでも宣伝している。お持ち帰りの窓口は夕方から人が並んでいたりする。武田はその前を夜に通るのだが、持ち帰り客が常に立っている。店が小さいので、店内では待てないのだ。
 武田は一度だけ食べに入ったことがある。近くの中華屋の半分ほどの面積だが、カウンター席を多く取っている。店には常に三人のスタッフがいる。それだけ繁盛しているのだ。だから、この個人オーナーによる中華チェーン店は成功したことになる。
 そして、その近くの中華屋を覗くと、以前から夕食時でも四人がけテーブルに客がぽつんと一人いる程度だ。当然、誰もいない日もあった。
 しかし、チェーン店が出来てからしばらくは客に変化はなかった。最初から客が少ないのだ。
 そして、不思議な現象というのは、チェーン店が軌道に乗り、客が多くなってから表れた。これは、不思議でも何でもないかもしれない。
 ライバル店が出来て、客が減るのではなく、増えてきたのだ。
 先ほどいったように、最初から客は少ない。夕食時でもがら空きなのだ。
 理由はそこだ。これは中華屋の陳列台やガラスドアも貢献している。店内がよく見えるのだ。
 要するに、チェーン店であふれた客が、来るようになったのだ。
 それで、シャッターが閉まるどころか、客は今までの数倍になり、かなり繁盛するようになった。
 ライバル店が出来ることで、流行るという不思議な話だ。
 
   了
   
    


2011年9月4日

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