小説 川崎サイト

 

底力

川崎ゆきお



 剣士はバテたのか、寝転んでいる。
 そこに旅の雲水が現れた。
「様態でも悪いのか」
「底力を見せました」
「はて?」
 剣士は省略しすぎたようだ。
「剣士の底力ですよ。あらん限りの力を振り絞り、魔法使いを倒しました。魔法より、物理攻撃の強さを思い知ったに違いない」
 と、語ったとき、雲水も魔法系ではないかとはたと気付いた」
 雲水もそれを察したようだ。
「いや、わしは物理攻撃タイプの坊主だ。叩き坊段慶と申す」
「段慶さんですか」  
「ああ、そう呼んでよい。一般には旅の雲水でもいいのだがな。気ままな巡回タイプの坊主よ」
「巡回って」
「同じところをぐるぐる回っておる」
「ああ、そうなんですか、私はこの地は初めてなので」
「そのようだな。初めて見る剣士さんだ」
「しかし、駄目ですねえ。底力を使うと」
「どうしてかな。最善を尽くした。全力を使ったという意味では、好ましいのでは」
「この辺の魔法使い、手強いです。それに数も多い。それを全部退治するとなると、無理がある。もう少し余裕のある戦いをしないと身体が持ちませんよ」
「ほほう、この地の法師を倒されたか。それはお強い」
「そいつには剣士の底力を見せつけましたが、あとが続きません。もう底力なんて出さなくても、楽に戦いたいものだと、今反省しているところです」
「ここらの法師を倒す目的は?」
「都のさる貴族からの依頼です」
「そうか、あなたは傭兵だったか」
「このあたりが領地らしいんです。法師たちが勝手に住み着いて、やりたい放題だから、退治してくれって」
「この地には何百と法師が湧いておるぞ。それをすべて退治せよとはケチな話」
「ケチ」
「雇ったのはあなた一人だとすると、それは無理な話。同数以上の傭兵が必要でしょう」
「ああ、そうですねえ。でも出来高制で、狩った数だけ報酬がもらえるので、その点は問題ないです」
「そうか、そういう仕掛けならよろしい」
「さっきの戦いを木陰で見ていた奴が仲間のところに戻って、噂を立ててくれればいいんですが」
「何の」
「ですから、剣士の底力がどれだけ強いかを」
「うむ、それで」
「これって、プレッシャーを与えることになるんですよね。敵も警戒して士気が落ちる」
「そういうことか」
「ちょいと、一眠りします。疲れ果てました」
「はい、お大事に」
 その後、剣士は魔法使い狩りを続けたが、噂は伝わっていないらしく、敵は容赦なく攻撃してきた。そのため、一人倒すのに底力のすべてを使い果たすため、疲労困憊した。
 底力は常時使えるものではないようだ。
 
   了


    


2011年9月24日

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