小説 川崎サイト

 

ゾンビの散歩

川崎ゆきお



「寒くなりましたなあ」
「もう冬ですよ」
「それはまだ早い。夏が終わったばかりですぞ」
「ああなるほど」
 散歩中の二人の会話だ。
「半袖では寒い」
「そうでしょ、そろそろ冬支度をしないと」
「冬に向かっておるのは確か。支度して損なしだな」
「暑つけりゃ、脱げばいいんだ」
「なるほど」
「最近三橋さん、見かけませんな」
「ああ、あの爺さん。毎日散歩していたのにねえ。どこか具合でも悪いのかも」
「こうして、一人、また一人と減っていきますなあ」
「三橋さん、また復帰するでしょ」
「そうかなあ。最後に見たとき、辛そうに歩いていましたぞ」
「誰だって体調の悪いときがありますよ。私らだって、似たようなもの。年の順番じゃないかも」
「噂、聞きません?」
「幽霊の」
「それは飛躍しすぎる。三橋さん入院したかどうか」
「あの爺さん、合えば話すけど、どこに住んでるのか、家まで分からないですよ。それに地区が違うので、噂も聞きませんよ」
「そうだね」
「まあ、また復活するでしょ。寒いので、来なくなったのかもしれませんし、病気で倒れているとは限らんしね」
「次、三橋さん見たら、それ幽霊ですよ」
「またまた」
「よくある話なんだけど、私らが幽霊だったりするかも」
「それはない」
「死んだ覚えないですか」
「ないない」
「なら、いいんですがね」
「生きてますって、私らは」
「ゾンビみたいなものですよ。生きてるだけ」
「ゾンビって、死人でしょ。生きていませんよ」
「死体が復活したんですよ。だから生きているんですよ」
「じゃ、我々はゾンビかい」
「そうじゃないけど、似たようなものだよ。歩くスピード的にはね」
「ゾンビって、遅いのかい」
「身体が不自由だからね。腐っているし」
「腐ってる?」
「一度埋められた死体が墓場から出てくるんですよ」
「じゃ、大丈夫だよ。今は火葬だから」
「ああ、なるほど」
 翌朝、三橋の爺さんは復活していた。ゾンビとしてではなく人間で。
 
   了

 


2011年10月5日

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