小説 川崎サイト

 

陸軍荻窪学校

川崎ゆきお



「市民兵としてオキナワへ行くべきです! 先輩も当然行動してくれるでしょうね」
 島田は旧友からの電話で驚いた。かなり年下の友人だが、最近は会っていない。まず市民兵というのが分からない。何かの別名だろうか。本当の兵士ではなく、会社の戦士とか、呼ぶではないか。また、政治家も、役職を退き、一兵卒として党のため戦うとか。つまり、本当の戦争に参加する兵士ではない。
「オキナワにテッコクの空母艦隊が接近していることは分かっているのです。ここは我々本国の人間が、義勇兵となって、オキナワを守るべきでしょう」
 電話は一方的で、息をつく暇のないほど喋りかけてくる。アジっているような感じだ。
 島田は、話の継ぎ目が見つからないので、強引に割って入る。
「空母艦隊って、なんだよ」
「テッコクに決まってますよ先輩。僕は陸軍荻窪学校の人間と関係があります。だから、空母部隊がミッドウェーから動いたという情報を得ているのです」
「中野学校の間違いじゃないのかい」
 陸軍中野学校とは、昔あったスパイ学校のようなものだ。
「どうして、その荻窪学校の人間と繋がりがあるの?」
「陸軍荻窪学校は、実は忍者学校で、伊賀の百地家が初代校長なのです。僕は伊賀組の下忍組織に参加していますから、そこからの確かな情報です」
 島田は旧友がからかっているとは思えなかった。そんな態度は過去一度もない。また、人をからかうような人間ではない。とすると、答えは一つしかない。いってしまったのだ。
「それで君はどうするの?」島田が聞く。
「先輩と一緒に出兵したいと思います。オキナワまでは偽装工作船で行きましょう。小さな漁船ですが、先輩の席も取っておきます」
 これは重症だなあと、島田は思った。やはり、いっているのだ。
「飲んでるの」
「え、何をですか」
「今、何か飲んでる」
「はい、病院から配給された薬を飲んでいます」
「どこの病院?」
「陸軍荻窪学校付属病院です。校内にあります」
「何の薬」
「さあ、滋養剤かと思いますが。おかげで元気です。まむしとかハブとかが入っているのかしれませんね」
 島田は何となく分かってきた。
「明後日横須賀駅前集合でいいですね。先輩」
「ああ、上手く起きれたら行くよ」
「オキナワがやられると本土も危ないですからね。絶対に参加してくださいよ」
「ああ、分かった。ゲートルを買っておくよ」

「そんなの近くじゃ売ってないでしょ。僕が学校の購買部で調達しておきます」
「はいはい」
 島田はそれ以上旧友の発作につきあえなかったので、電話を切った。
 
   了

 


2011年11月2日

小説 川崎サイト