小説 川崎サイト

 

去りゆくとも

川崎ゆきお



 ネットで映画を観ているときだった。ケータイに電話が入る。坂上からだ。
 岡村はそのまま放置しようと思った。坂上は送別会の幹事だ。用件は決まっている。「まだ来ないの」だ。
 岡村は動画を一時停止する。バーを見ると、まだ三分の一ほどしか見ていない。それよりも、ドラマが展開し始めている。それまでは、淡々とした日常なので退屈し、別のを探そうかと思っていたほどだ。
 後々のことがある。ケータイに出ないと明日から気まずい。
「もしもし」
「ああ、いたいた。今、向かってるところ? どの辺り、迷ってない。迎えに行こうか」
「ちょっと急用が出来たんだ」
「え、よく聞こえない。もう盛り上がってるよ。急いで来てね」
「行けないんだ」
「行けないって、言ったの、今」
「急用で」
「急用?」
「ごめん」
「何とかならないの、竹田君も待ってるよ。一番の親友じゃないか」
「ああ」
 確かに岡村は竹田と仲がいい。同期でもあり、いつも一緒だった。しかし転勤で、出て行ってしまう。もう二度と会う機会がない。自分が東京本社に栄転にならない限り。しかし、その可能性は全くない。竹田は優秀だったのだ。
 別にねたんでいるわけではない。送別会へ行かないのは、無駄だと思ったからだ。すぐに忘れてしまうだろう。お互いに。
 それよりも、部屋で映画でも観て、のんびりしたい。
 確信犯だ。最初から行く気がないのだ。
 岡村は再び映画の続きを観た。
 三分の一を経過したあたりから、展開が早くなり、次々に事件が起こる。気持ちのいい裏切られ方だ。日常の何でもない風景を描いている作品だと思ったのだが、そうではなかったのだ。
 岡村は、もう送別会のことも竹田のことも忘れて、映画に集中した。
 翌日の夕方、竹田から電話があった。
 会いたいという。
 岡村は竹田と新幹線乗り場近くの喫茶店で軽くコーヒーを飲んだ。
「来なくってよかったよ。あの送別会。ただの飲み会なんだ。じっくり話も出来なかったよ」
「あ、そう」
「見送りは君にしてもらいたかったんだ」
「えっ」
「変な意味じゃないよ」
「ああ」
「淋しかったんだろ。毎日顔を合わせてたからね」
 竹田は引っ越し先のプライベート名刺を竹田に渡した。
「東京に来たら、連絡してくれよ。僕もこっちに来るついでがあったら寄るから」
 岡村は竹田とはもう二度と会えないと思っていたので、意外だった。
 それから二十年経過した。
 二人はまだ再会していない。
 
   了


2012年1月10日

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