小説 川崎サイト



人を見る

川崎ゆきお



「枕が変わると眠れんだろ」
「はい」
「よく眠れたかい?」
「はい」
 マクドよりここのモスのほうがハンバーガー美味しいね」
「そうですねえ」
「君は暑いのは平気かい?」
「はい、寒いのは苦手ですが」
「私は暑いのが駄目なんだよ。ほらこんなに冷房が効いているのに、こんな汗だ。寒けりゃ厚着すりゃいいんだよ。でも暑いとこれ以上脱げん。夏の外回りでスーツはきついよ」
「はい」
「昨夜もエアコン入れっぱなしで眠ったよ」
「そうですか」
「明日もまた回らないといかん。うんざりするよ……この季節は」
「そうですね」
「君はずっと本社にいたの」
「はい」
「外回りは初めてかい?」
「はい」
「一人欲しいって言ったら君を寄越してくれたよ。助かるよ」
「はい」
「一人と二人とじゃ全然違うからね」
「そうですか」
「期待してるよ」
「初めてなので、よろしくお願いします」
「うんうん」
「では、今日は帰ります」
「まだ宵の口だよ。いろいろ打ち合わせもあるから、これから飲みに行こう」
「でも、まだ部屋の整理が」
「気に入ってくれたか、あのマンション。駅から近いしね。まあ、家賃は会社が払うんだから、いいとこ押さえたんだよ」
「はい」
「本社で、何やってたの?」
「主に電話です」
「だろうねえ」
「ちょっと心配な面も」
「あのさ、話すときは相手の目か顔を見ることね。周囲の客を見ないこと」
「はい」
「ほら、また他の人を見てる」
「電話ばかりなので、どこを見ていいのか、分からなくて」
「今、私と話しているんだからね、よそ見ばっかりしてるよ君は。知らない人の顔色見てどうするの?」
「はい」
「ほら、まただ」
「はい」
 
   了
 




          2006年7月15日
 

 

 

小説 川崎サイト