小説 川崎サイト

 

システムマニア

川崎ゆきお



 あるシステムが出来上がると、飽きてくる。
 そして、別のシステムを作りたくなる。これは、システム作りは小学生の工作のようなもので、出来るまでが面白い。完成すると、しばらくおつに浸っているが、いつまでもその境地を楽しめるものではない。出来上がったものは飾りではなく、実用性の高いシステムの場合、運用することで活きる。
 飽きたというのは、この運用に対してだ。
 三村は会長直命でパートも含めた全社員、個人情報のデーターベースを作っていた。会長とは直接会ったことがない。すべてメールでのやり取りだ。
 会長は全社員の動向を監視したがった。覗き趣味のようなものだ。三村は年寄りにも分かるよう、ビジュアル性の高い、インターフェース画面でデザインした。
 データーベースの中身は、人事課が把握しているものとは雲泥の差がある。雲は会長であり、泥は社員なのだが、情報量が全く違っている。プライベートな個人情報、確認していない噂話。また、誰と誰が仲がよいとか、社外の人間関係にまで及んでいる。
 ただし、それを見るのは会長だけだ。一人の客のために、システムを作り上げたのだ。
 データーベースの中には動画も含まれている。つまり、顔写真だけではなく、盗撮した動画で、素顔に近い。
 三村が飽きてきたのは、ほぼそれが出来上がり、会長に見てもらうことで、満足を得た後だ。しばらくは、新ネタを更新していたのだが、それにも飽きてきた。
 会長も、徐々に飽きてきたのか、日に何度もアクセスしていたのだが、最近は一週間に一度程度のアクセス履歴しか残っていない。
 三村が飽きてきた理由の一つが、客の反応が芳しくないことだ。やりがいがないのだ。唯一の客である会長も、熱心に見なくなったためだろう。
 ある日、メールで、それとなく言ってみた。何か不満な点でもあれば、改良しますが……と。
 会長は違うものが見たいと言い出した。
 三村は喜んだ。別のシステムが作れそうなので。
 ここで、三村はあることを思いついた。システムではなく、新ネタではなく、会長の思いと自分の思いが似ていることだった。
 完成したシステムより、新たに作るシステムのほうに興味が行くのだ。
 三村の提案は、監視カメラシステムだった。
 つまり、会長の好みが動画であり、盗撮マニアであることを、うすうす気付いていたからだ。
 この監視カメラは、セキュリティのためではなく、覗き趣味用の目的しかない。だから、設置場所は当然それ用の段取りを踏むことになる。
 会長の趣味が明快になったのは、やり取りのメールの中で、トイレという言葉を見つけたときだった。
 三村はにんまりした。
 
   了

 


2012年2月6日

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