小説 川崎サイト

 

偽意見

川崎ゆきお


「意見を言う人と、言わない人との違いは何だと思いますか」
「それが君の意見かね」
「聞いているだけです」
「で、何を導きたい。どの答えを導きたい」
「あのう、聞いただけですよ。本当に」
「それは、分析すれば分かる」
「お聞かせ下さい」
「だが、この分析が私の意見になる」
「ああ、そうなんですか」
「分析方法が、そもそも意見なんだよ」
「はい、是非お聞かせ下さい」
「意見を言う人は意見がある。意見を言わない人は二つに分かれる」
「都合三タイプですね」
「今のところはね」
「はい」
「意見があるのに言わない人と、意見がないから言わない人に分かれる」
「意見がないので、言わない人は、静かなるアホですね」
「いや違う。阿呆じゃない。意見を言う必要がないのだよ」
「あのう、それを普通、意見がないというのじゃないのですか」
「そんなことで、意見など言わないというのが、その人の意見なんだ」
「ああ、なるほど」
「ある事柄に対して、意見がないということだ。だから、別の事柄では意見がある」
「意見というのは主張のようなものですよね」
「そうだ。だから、意見を言う人は、主張を通したい。ない人は、パスだよ。特に主張はない」
「はあ、それで、先生はどちらですか」
「今、いっぱい、沢山、意見を言ったじゃないか」
「ああ、そうでしたね。意見を言うタイプなんですね」
「聞かれたからね」
「それは、また、別の糸口ですね」
「いいことに気付いた。つまり、ここで意見を言うと損になるときは言わん。だが、意見がないわけではない。これがある。これが」
「他のパターンはどうですか」
「私は意見学者じゃないので、それ以上の詳細は知らんし、分類したことはない。だから、今思いつくまでに述べただけだ。だから、分析ではなく、意見のようなものだよ。意見だから、思い浮かぶ範囲内だ。心当たりがある範囲内だ。そこから先は想像になる。よく分からん。だから、言わない」
「会議なんかで、発言しない人がいるんですよ。あれは保身でしょうか」
「会議なんて、答えは最初から出ているものだろ。だから、意見を戦わせるだけ損じゃないか。保身じゃなく、普通だよ。会議は儀式だからね」
「ああ、なるほど。でも意見を少しでも言ったほうが、やる気があるように見えるでしょ。どうせ、通らない意見でも、口を出したほうが参加しているように見えるし」
「そのときの意見は、本気じゃないだろ」
「はい、すぐに下ろせる意見です。大事な意見は、そんなところじゃ言いませんよ。波風立てるだけですからね」
「そうだね。意見なんてないほうがいいんだ。角が立つだけでね。どうせなるようにしかならんのだから」
「はい、少しは賢くなりました」
「例えば」
「急に言われても、困りますが。そうですねえ。偽意見も必要だと」
「それはいいねえ。偽意見だから本心じゃない。だから、ダメージはない。ただし、誤解されんように努めることだな」
「はい、分かりました」
 
   了



2012年2月14日

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