小説 川崎サイト

 

うたた寝

川崎ゆきお


 上田は横になった。疲れたからだ。
 布団の中なので、そのまま眠ってしまいそうだ。問題は何もないはずだ。しかし、これは昼寝になる可能性が高い。問題があるとすれば、そのことだ。ここで昼寝をすると、夜、眠れなくなる。眠れるのだが、寝るのが遅くなる。ここで昼寝をした分、眠くなる時間がずれるはずだ。
 しかし、このまま起きてられないほど疲れている。体は睡眠を欲している。無理に起きていても、眠いだけ。
 そこで上田は決心をした。昼寝ではなく、このまま思う存分寝ようと。つまり、夜に寝る睡眠時間と同じ時間を寝る。ただ、決心などしなくても、そのまま目を閉じれば、その状態になるだろう。決心の必要はないが、今なら何とかなる。
 睡眠不足で眠いのではない。疲れているのか体調が悪いのか、やたらと眠い。もしこれが体調の悪さからきているとすれば、寝るのが一番の薬。
 そして、自然な流れで、うたた寝にとなる。これは何の努力も必要ではない。
 眠りに落ちる寸前に、耳障りな音がしていた。寝かかったところで、その音で戻される。
 誰かが甲高い声で喋っている。複数の人間がなにやら騒いでいる。これはもう夢の中に入ったのかと上田は思ったのだが、こんなうるさい夢はない。眠りを妨げる大きな声なのだ。しかも非常にはしゃいでいる。特に女性の甲高い声が耳障りで、その声が耳に入ると、ぐっと眠りから遠ざかる。
 半分夢の中に入っているのなら、映像があるはずだ。確かに絵は出ていた。昔、ハイキングに行った山中での思い出が夢の中に出たり引っ込んだりしている。水筒の水を飲むか、飲むまいかと悩んでいる夢。それが人の声でかき消える。
 軽く目を開けると、眩しい。蛍光灯を消していなかった。それで、すぐに目を閉じる。
 人の声、男女の声が聞こえる。何人かは分からない。
 キャーと、悲鳴が聞こえた。
 上田は驚いて、目を開けた。目が覚めてしまった。
 原因は何でもないことだった。テレビをつけていたのだ。
 テレビは自動的にスイッチが入ったのではなく、消し忘れだ。しかし、テレビがついていれば、すぐに分かることだ。
 気が付かなかったのは、画面に絵が映っていなかったためだ。最近買ったこの液晶テレビは、人を認識するらしい。そして、テレビ前に人がいなければ、省エネモードに入り、画面が消えるようだ。
 テレビより布団の方が低い。またはセンサーを傷害するテーブルがあったのだろう。だから、人物が関知できないので、誰もいないと判定し、切れたのだろう。そして、布団から上体を起こすと、テレビがついた。液晶モニターだけがオンオフするが、音声は自動的に切れないようだ。
 
   了



2012年5月23日

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