小説 川崎サイト

 

ある変化

川崎ゆきお


「こんにちは、見回りに来ました」
「ああ、ご苦労さん」
「変わったこと、ありますか」
「いや、昨日と同じような感じかな」
 この見回り人は週に一度来ている。
「じゃ、特に変わったところはありませんね」
「どのレベルから、変わった、変わっていないかを決めるのかは、僕が決めるのですかな」
「そうです」
「例えば?」
「お腹が痛かった、なんかです」
「ああ、痛かった。しかしすぐに治った。これはたまにある。しかし、たまには痛くなるので、特に変化ということではない」
「そういうことでも結構ですよ。いつもと違うことがあった場合、言ってください」
「一番変わったことっていえば、あなたが週に一度来る日かな。この日ばかりは、いつもと違う」
「それは変わったことじゃありません」
「いや、僕にしてみれば、それはいつもと違う変化なんだよ」
「でも、それはいつものことなので」
「そうだね。週に一度来られる。これは決まったことで、いつもと変わらない。だから、いいんだね」
「そうです」
「いやいや、どこまで言えばいいのか、ちょっと分からなくてね」
「岸野とさんが、変わったこと、と思われたことが、変わったことなのです」
「だから、僕は、あなたが週に一度来るから、その日が変わった日だと感じているんですが。週に一度、変化があるとすれば、あなたが来ることだ」
「私は、見回り人ですから、聞きに来ているだけですよ」
「それが、僕にとっては、変わった日なのです」
「他にありませんか」
「幽霊を見ましたが、これはよくあることなので、言う必要はないことですねえ」
「え、幽霊を」
「でも、大した変化じゃない。いつもだから」
「それは、凄い変化ですよ」
「そうなんですか。珍しくも何ともない」
「本当に幽霊を見られたのですか」
「ああ」
「それは大変です」
「何が大変なのかな」
「怖いでしょ」
「別に」」
「でも幽霊を見るなんて、異常体験ですよ」
「別に怖くはないし、困ってはおらん。空に雲が出たようなものだし、夜に月が出たようなもので、いちいち言う必要はないでしょう」
「どんな幽霊ですか」
「知らない」
「知らない人ですか」
「ああ」
 見回り人は黙ってしまった。どう処理していいのかを考えているようだ。
「あのう……」
「何かね」
「病院へ、行きましょう」
「僕はどこも悪くないが」
「きっとそれは幻覚だと思います」
「じゃ、精神の病とでも」
「失礼ですが、そうだと思います」
「そこにいるよ」
「え、幽霊がですが、見えません。そんなの」
「あなたの後ろだ」
 見回り人は後ろを向いたが、そのまま卒倒した。
 
   了


2012年5月30日

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