小説 川崎サイト

 

コピー

川崎ゆきお


 こだわりの手作りパンや、こだわりも豆腐は高い。こだわりが免罪符となり、価格を高くしても許されることになる。
 値段を安くするこだわりは、こだわりの価格だ。値段を安くすると、質が落ちる。そのため、質を落としたこだわりとは言わない。ポイントを切り替えたのだ。
 こだわるということは、以前はいけないこととして使われていた。性格的におかしな人として。
 それで、昔から中庸という言葉で、これらを解毒していたのだが、この中庸は悪く言えば中途半は、どっち付かず、よくても穏健で中間派だ。
 凡庸、平凡。このあたりは特色のない人間だ。だから、あまり特色のない商品は文字通り特徴がないため、目立たない。
 そして、商品の多くは目立つように作られているため、どれも目立たなくなる。
 こだわらないことへのこだわりもある。しかし、これはこだわっていないことになる。何にこだわっているのかが見えにくいのだ。
「先生、それは意味が違ってくるからでしょうねえ。時代により」
「しかし、一度手垢の付いた言葉は、しばらくはだめだろう。歴史は繰り返されると言っても、しばらく間をおかないとね。そして、復活しなかった言葉もある」
「流行は繰り返されるのでしょうか」
「意味を変えて復活するんだろうね」
「確かにこだわりって言葉、最近陳腐になりましたねえ」
「もう、賞味期限が切れたんだろ」
「では、どんなコピーがいいのでしょう」
「言葉は嘘を付く。素朴な言葉もコピーにすれば嘘になる。だから、あまり意味が乗っていない言葉を選ぶのがよろしい」
「先生、それではコピー塾にはなりませんよ」
「どの言葉を使うかではなく、どの言葉を使わないか……ということだよ」
「それは、名文を作り出すより、難しいですねえ」
「そうだ。絶対に流行らない言葉を選ぶ必要があるからね」
「はい」
 
   了

   


2012年6月27日

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