小説 川崎サイト

 

夏の洋館

川崎ゆきお


 夏休み、親戚の家に泊まり、その近所を探検していると妙な場所に出た。という話がよくある。
 増岡が体験したのもそれに類似している。場所は田園地帯の家。農家ではなく、普通の住宅地だ。不思議と緑の多い場所なのは丘陵近くにあるためだ。そのため、古い一軒家が結構残っている。それなりに高級住宅地なのか、一戸建てが多く、マンションなどはそのころまだ建っていなかった。
 増岡少年が入り込んだのは広い庭だった。子供なので、隙間があれば入り込む。私有地でも自在だ。このあたりは犬や猫と同じだ。まだ、他人の所有地という概念が明確ではないのだろう。それだけではなく、一般の通路なのかどうかが分かりにくく出来ている。奥まった場所にある家は通りから外れているため、その家専用の小道が通っている。増岡はそんな場所に入り込んだのだ。そして、出てきた広い場所が庭だった。子供なので広く感じたのだろう。
 四方は樹木で取り囲まれ、まるで目隠しのように、その家を隠している。庭の奥に母屋があり、見慣れない洋館だ。
 増岡はとんがった屋根を見て、教会ではないかと最初思った。それなら入り込んでもいいのではないかと思い、その母屋に近付いた。
 縦長の大きな窓があり、開いていた。カーテンも半開きだ。そこから中を覗くと、物置のように、いろいろなものが所狭しと並んでいる。それらが何かは、よく分からない。家具というより、道具類のようだ。
 それで、教会ではないと判断し、入り込むのを止めようとしたが、探検を続けたい気持ちは残った。
 この残った気持ちが、別の窓へと向かわせる。庭に面していない側の窓へ。
 そちらの窓はカーテンが掛かっており、中は見えない。
 さらに洋館の裏側へ回り込み、小窓を見つけた。カーテンは閉まっていないので中はよく見えた。台所のようだ。
 その横にドアがある。かちっとノブを回すと開いた。だが、中に入る勇気はない。
「おい」
 奥から男の声。
「そっちか」
 増岡はドアを閉めた。
「休憩が済んだら、続きをやるよ」
 増岡は小窓からそっと中を覗いた。
 上半身裸のおじさんが立っている。奥の部屋だ。幸い横を向いているので、見つからないで済んだ。
 増岡は身をかがめながら、洋館を回り込み、庭から一目散に走り逃げた。脱兎のごとくとはそのことだ。
 親戚の家に戻り、従兄弟にそのことを話した。
「裸の女がいただろ。見た?」
「いいや」
「じゃ、今度一緒に見に行こう」
 結局、二度とその洋館へ行くことはなかった。
 これもよくある話なのだが、その洋館は画家のアトリエだったらしい。
 
   了

 


2012年7月30日

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