小説 川崎サイト

 

夢語りの会

川崎ゆきお


 夢語りの会がある。将来の夢を語る会ではなく、見た夢を語る会だ。自分の希望や願望も夢だが、それよりも、本当に見た夢の方が、夢としてのリアリズムがある。夜に見る夢の方が、明け方に思い付いた将来の夢よりもリアルだ。ただ、夢そのものは昼間の世界ではない。だがそこにはリアルなものが隠されている。
 夢語りの会は、そういう主旨ではなく、単に見た夢を語り合う会だ。
「昼寝の夢を見ました」
「眠っている夢というのは奥深いです」
「いえ、眠っているときに、さらに夢を見ているのではなく、この場合の昼寝とは、ゴロンとなっている状態です。ですから、昼寝ではなく、ごろ寝かもしれません。そして、実際には眠っていません。目を瞑っているだけです」
「ややこしそうな夢ですねえ」
「いえ、決してそうではありません。私の語り方が下手なだけで、実に単純な夢です」
「はい、続けてください」
「東海道で昼寝しているのです」
「ちょっと、絵が浮かびませんが、もう少し詳しくお願いします」
「天下の大通り、東海道です。だから、きっと汽車が出来るまでの話なんでしょうねえ。江戸時代とか」
「はい」
「非常に日当たりのいい場所です。静岡あたりかもしれません。富士山が見えます。茶畑も、そして海も近いのです。街道はやや盛り上がっています。きっと川沿いの土手を廃道が走っているのでしょうねえ。それはよく分かりませんが、少しだけ盛り土された場所です。その斜面は草むらで、軟らかい雑草が生えています。蓮華やタンポポでしょうか。三つ葉などもあります」
「風景の夢ですか」
「いえ、そこまで詳しい映像ではなかったかもしれません。私の脚色も入っています。きっとそういう場所だったと」
「はい、続けてください」
「私は街道沿いでゴロンと転がっています。斜面になった寝床のような感じで。そして、街道にはいろいろな人が行き交っています。まさに天下の大通りです。私はたまに目を開けて、通行人を見ています」
「ちょっと待って下さい」
「はい、何か」
「あなたは頭を斜面の下側にして仰向けになって寐ていたのですか」
「いえ、頭は街道の方角です」
「それじゃ、街道は見えないでしょ」
「仰向けではなく、俯せです。だから、街道は見えるのです」
「はい、分かりました」
「それだけです」
「はあ」
「だから、それだけの夢です」
「何でしょうねえ。その夢は」
「はい、私なりに分析しました。いろいろな人の視界の中で、眠りたかったのかもしれません」
「ほう」
「凄く平和な夢でした。目覚めたとき、非常に気持ちがよかったです。豊かで満たされた気持ちになりました。だから、夢としては何でもないのですが、是非とも話したくて」
「その夢は何処で終わりましたか」
「分かりません。夢の映像では、私も見えています。街道の土手で眠っている私と、行き交う人達が同時に見えてました。何処で終わったのかは忘れました」
「はい、次の人」
「あのう、まだあるのですが」
「順番が来ましたので、また次回」
「あ、はい」
 夢を語ったこの人は、次回は、もっと受けるネタをやるべきだと反省したようだ。
 
   了

 


2012年8月5日

小説 川崎サイト