小説 川崎サイト

 

二つのスポット

川崎ゆきお


 妖怪博士付きのいつもの編集者が訪問した。
「廃墟ですすり泣く女と狐塚で女のうめき声というのがあるんですが」
 編集者はプリントアウトしたものを見せる。どちらも掲示板に投稿された記事だ。
「廃墟ですすり泣く女」
「はい」
「狐塚で女のうめき声」
「はい。いかがですか」
「慌てるでない。まだ読んでおらん」
 妖怪博士は二枚のプリントをちらっと見る。
「もう少し大きい文字でないと、読めんぞ」
「じゃ、僕が説明します。廃墟となっていますが、廃屋です。しかし小さなビルのようです。場所は小さな田舎町」
「うむ」
「狐塚で女のうめき声の狐塚はこんもりとした岡です。これも地方の村にあるようです」
「二つ、同時に説明する気か」
「じゃ、一方から」
「貸しなさい。虫眼鏡で読むから」
「はい、お願いします」
 妖怪博士は虫眼鏡で履くように読んだ。特に内容はない。声を聞いたという程度だ。
「いかがでした」
「何を私から引き出したい」
「当然、妖怪ですよ」
「内容からすれば、幽霊だろ」
「それを妖怪に変化させてくれませんか」
「人の霊を妖怪に持っていくのは禁じ手だ」
「そうなんですか」
「人の恨み辛みが動物や器物に乗り移るというのはあるがな」
「それなら、狐や狸が女の幽霊に化けて、人を化かすというのはどうでしょう」
「今時そんなリアリティーのない話、誰が信じる」
「だって、先生、いつも狐狸の仕業にするじゃないですか」
「それよりも」
「何でしょう」
「この二つの記事、同じものだ」
「はあ」
「同じネタだ」
「どういうことでしょう」
「どちらも幽霊の出そうな場所。つまり、人の気配が少ない場所」
「放置されたままの古いビルって、怖くては入れませんねえ。確かに。しかも夜だと。この狐塚も、古墳跡のようですし」
「まだ、分からぬか」
 編集者も気付いたようだ。
「幽霊や妖怪じゃなく、あっちですか」
「投稿者も、それが分かった上のことだろう」
「R指定が必要ですね」
 
   了


2012年8月10日

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