小説 川崎サイト

 

宝探し

川崎ゆきお


 四十半ばでリストラにあった武田は、実家に戻り、引きこもってしまった。会社が怖くなったのだ。父親は定年まで勤め、悠々自適の生活を送っている。蓄えもある。武田はそれになれなかったのだ。
 会社が怖いので、就職先など考えていない。また、同じ目に遭うことを恐れる以前に、勤務先で身につけたスキルなど、外では通用しないため、再就職といっても誰でも出来る仕事になる。もうレールから外れたのだ。
「いるかな」
 二階の武田の籠城の間へ、友人の大村がやってきた。
「やっているらしいなあ」
「取り次ぎは?」
「なに、それ」
「勝手に上がってきて」
「おばさんが、いいってさ」
 大村なら、息子は会うだろうと思ったのだろう。
 大村はずっとフリーターだ。
「ほっとしたよ。これで気兼ねなく、君と会える」
「どういうことだ」
「同じだから。同じ部屋住の身」
「そうか、大村君は先輩になるのか」
「まあね」
「しかし、君はバイトか何かしてるんだろ」
「最近それもなくなってきて、今はのんびりしている」
「のんびりか」
「君も辞めてからは、のんびりしているらしいじゃないか」
「これが、のんびりと言えるのかなあ。いろいろと考え込んでしまって、動けないだけさ」
 武田はレールから外れたことを愚痴った。
 大村は最初からレールがなかった。
 武田の期待通り、ほとんどニートの大村からは建設的意見は出なかった。
「宝探しに行かないかい」
 大村が急に言い出す。とんでもない話題にワープしすぎなのだ。武田は(宝探し)は何かの比喩だと最初思った。しかし、聞いているうちに、リアル宝探しであることが分かった。
 宝くじを買うのではなく、宝そのものを探しに行くと言うものだ。
「それは健全か」武田が問う。
「いたって健全。健康。大らかなほどの青空だよ」
 長くぶらぶらしている大村は、いきなりそこに行き着いたのではない。だが、武田は選択肢の中には全く入っていない。そのレベルに達していないのだ。
「幻覚症状じゃないのかい」
「いたって、まともだ」
 大村は安物のショルダーバッグから紙束を取り出した。
 それを畳の上に並べた。
「資料だ」
「待ってくれ、大村君。僕はまだその境地には達していない。少し準備が必要だ」
「そうだね。しかし、これが見つかれば、将来にも繋がる。大金が入れば、君は会社だって起こせるぜ」
「だからあ、その境地にまで、まだ心が緩んでいないんだ」
「じゃ、待つよ。僕も一人では不安なので、たとえ分け前が半分になっても、誰かと共有できる友を捜していたんだ」
「うんうん、分かったよ大村君。だから、今日はもう帰ってくれないか。追い出すんじゃないよ。僕にもその隙が欲しいんだ。今はまだ、その心の隙が開かない。開いたら乗るよ」
「そうか、期待して待ってるぞ」
 大村は階段を下りていった。
 武田も何となく、ついて行き、見送った。
 母親は息子の顔色がよくなったので、少し安心した。
 
   了

 


2012年9月12日

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