小説 川崎サイト

箱巫女占い

川崎ゆきお


 都心部に近い日帰りの観光地がある。私鉄でもすぐに行ける場所なので、市街地の外れという程度だ。
 そのブログには、川筋の歩道を行くと土産物屋が並び、さらにその川の支流を少し上がった所に染物屋があり、そしてその向こうに小さな滝がある。つまり、行き止まりだ。
 そこに小さな祠があり、巫女占いが行われていると記されている。
 祠は神社の本殿を小さくしたようなもので、御神輿の本体程度の大きさで、その須弥壇のような場所で太鼓や笛を奏でる人ではなく、巫女が座っている。
 しかし、巫女の扮装ではなく、老婆が普段着で座っている。箱の中に入っているような感じで、お地蔵さんが入っている祠に近い。しかし、形は御神輿に近い。
 そのため、これはモデルになったものがあるのだろうが、適当に作った物と思われる。つまり専門家ではなく素人が適当に作った祠なのだ。
 祠というより木箱のようなものだが、移動出来る。山車だ。そのため、祠とは少し違う。動く箱なのだ。
 一見すると老婆が牢屋に閉じ込められているように見える。大きな犬小屋のように。
 この巫女占いが当たるらしく、観光地の帰りに、立ち寄る人が多く、行列が出来ていることもある。
 近くに土産物屋の屋台が出ている。それと間違うほどだ。団子と書かれた旗をなびかせてもいいほどだ。ただ、この巫女占いの祠には何も記されていない。口コミで自然と人が来ているのだ。
 ある人は、ダイレクトおみくじとか、ソーシャルおみくじとか呼んでいる。おみくじを社務所で巫女から買うのではなく、直接その巫女が占ってくれるようなものだ。
 ただ、その巫女占いは老婆なので、巫女のイメージはほとんどない。ただ、土着の古老然とした風貌があり、滝のすぐ近くでもあり、背景をうまく使っている。その滝は特に有名ではない。ちょろちょろと水が落ちる程度で、高さもない。
 この巫女小屋は移動する。たまに消えるのは、通報されるからだ。だから、いきなり現れる屋台のようなものだ。だから、潜りの屋台として当局は見ている。ただ、道路交通法には違反していない。私有地のためだ。しかし、不法侵入だ。
 そういう解説がブログに書かれている。
 竹田は興味を抱き、そこへ行くことにしたのだが、問題はその情報の信頼度だ。
 かなり前に書かれたブログで、その後更新はない。放置されている。ある個人が適当に書いていた日記なのだが、数週間分しかない。巫女占いの記事はその中ほどにあり、日記なので、その他の記事は日々のことが綴られている。他に行楽での記事が二三あるが、巫女占いだけが抜きんでている。
 記事の日付は三年前だ。これではもう巫女もいないかもしれない。
 老婆がその後の三年間生きていたとすれば、まだやっているはずだ。記事では老婆と書かれているが、案外若いかもしれない。
 それに近い事柄がないかと、ネットで検索するが、出てこない。やはり特殊な例なのだ。
 場所も何となく想像が付く。その観光地へ竹田は行ったことがあり、土産物屋が並ぶ川沿いも歩いたことがある。ただ、その支流を遡ったところへは入っていない。行き止まりになるためだ。それに染物屋があるだけで、あとは貧相な滝。
 風景を見に行くのではなく、そんな木箱のようなものの中に入っている老婆の姿が見たくなった。
 占ってもらう気はない。その前を通るだけでいい。そして滝を見て戻ればいい。これで二回見られる。
 さて、結果だが、何もなかった。
 染物屋で聞いてみたが、そんな老婆はいないらしい。当然、その箱のような祠はないとか。
 竹田は、戻ってからそのブログをもう一度見た。
 どうやら日記ではなく、その記事は書きかけの小説だったようだ。
 それなら、もっと小説らしく書けばいいものを、と竹田は思った。
 
   了


2012年10月3日

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