小説 川崎サイト

既成パターン

川崎ゆきお


 おおよそのことが分かっていると、詳細を知らなくても、何となく分かるものだ。その、おおよそとは何に関する事柄程度だろう。
 何について語られているのかは、何となく察しが付けば、あとはよくあるパターンに流し込む。
 これを既成のパターンなので、経験に照らし合わせてマッピングする感じだ。
 さらにこれを型にはまった発想ということになり、新たな発想には繋がらないと言われているが、岸和田はそうとは思わない。人が物事を認識するとき、型を使わなければ出来ないからだ。そして、これは先天的に誰でも持っている。ただ経験の違いで型版も違ってくるし、その人が欲しているものによっても型は変わる。
 型どおりの話や、型どおりの挨拶は省略していいほど楽だ。
 ただ、ここで岸和田が楽だと感想を述べているのは、岸和田が気楽さが好きなためだ。だから、選んでいないようでも選んでいる。
 人にはパターンがある。だから、きっとその範囲内で動くだろうと推測する。これがパターン認識だ。
 最近岸和田の友人である高島の動きがおかしい。高島らしくない動き方をしているのだ。怪我で足が悪くなり、歩く動作がおかしいと言うことではない。確かにこれも動きがおかしく、高島らしくはない動きなのだが、怪我をしている高島という括り方をすれば、いつもの高島の動きから外れるものではない。
 ただ、足の怪我で歩き方が悪くなった高島だが、そういう歩き方を見たことがない場合、新しい発見だ。同じ箇所を傷めれば、同じ歩き方になるのだが、やはり大げさになるとか、歩き方の工夫が違うとかで、差が出る。
 しかし、そういう話ではなく、ここでは高島の行為が気になるのだ。人は変化する。当然だ。だが、それも予測できる変化で、何となく納得できる。だが、今回はいつもの高島からは想像できない動き方をしているのだ。
 友人である岸和田はそれが気になる。岸和田の経験パターンから言えば、外圧が加わったように思える。いつもの高島のパターンから外れすぎているため、高島自身の、自主的な動きには見えないからだ。
 それで、岸和田は高島に聞いてみた。
「今回は自分にないものを選んだ」
 それが全てのようだ。
「どうして」
「ワンパターンに飽きたからさ」
「しかし、それは君に合っていないんじゃないかい」
「いつも似合っているものしか選ばなかったから、たまにはいい刺激なんだ。これも必要なんだ」
「でも他の連中が引いてるぜ。その服装、何とかならないの」
「ああ、これも新パターンを選んだおかげで買うことが出来たんだ」
 この岸和田を全く知らない人が、その姿を見ても、何とも思わないだろうが、ずっと岸和田を見ている人にとれば、それは変身であり、いつもの岸和田ではなくなってしまう。そのため、付き合い方も違ってくるのだ。
「他の奴らが不審がってもいいんだ。どうせ退職するから」
「そうなんだ」
「退職後は知らない地方都市で暮らす。これが楽しみなんだ。いつも君らに合わせてたんだ。本当は我慢していたんだ」
「そうとは思えないけど」
「うまく欺していたんだよ。君らのパターンに馴染むようにね。でもその必要はなくなった。みんなともお別れだから」
 それを聞いた岸和田は思い当たることがあった。それは、これまでの友人高島の動きではなく、自分自身だ。つまり、岸和田も合わせていたのだ。
「しかし、フライングだよ」
 岸和田が突っ込む。
「何が」
「その服装だ」
「ああ」
「退職してから着替えればいいじゃないか」
「ああ、そうだね。早まったよ」
 このあたりの早まり方はいつもの高島だった。

   了

 


2012年10月4日

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