小説 川崎サイト

 

ポストコスモス

川崎ゆきお


 秋日和で、コスモスが咲いている。よくある秋の風景だ。菊の花でもいいが、高橋の近くではあまり咲いていない。つまり、高橋の立ち寄り先には菊よりもコスモスを多く見かける。そして高橋は菊くよりもコスモスの方が好きだ。しかし、コスモスという花を愛しているわけではない。菊よりも好き程度だ。
 他にも花は咲いているが、秋はコスモスが好ましいという頭が高橋にはある。これはコスモスが出てくる歌などからの印象だろうか。菊は仏さんに供える花のイメージが強い。そして、菊は和風でコスモスは洋風のイメージがある。原産地を調べると、とんでもない国だったりするが。
 秋日和でコスモス。これは高橋が作っている定番だ。秋はこうでなければというような型がある。
 夏は向日葵なのだが、高橋はそれは採用しない。夏は朝顔にしている。しかし、そんな決め事をしても、何の役にも立たない。俳句でもやっていれば別だが。
 年を取ると、コスモスよりも菊が好きになるかと思えたのだが、そうならないようだ。菊のイメージが悪いのだろうか。年々菊に傾いていくわけではない。コスモスから菊へ徐々に移動していくのなら、コスモス離れが起こっているはずなのだが、その気配はない。
 しかし、今後菊が絡んでくる好印象な出来事に遭遇すれば、菊に傾くかもしれない。
 コスモスに関する悪いイメージが今後あったとすれば、コスモスを捨て、別の花に変えることになるが、それが菊だとは限らない。しかし、秋らしい花で、よく咲いているような花を思い浮かべるのは難しい。高橋は特に草花に興味があるわけではないので、知識が足りないのだ。
 秋になるといつも咲いている花がある。赤くて小さな花だが、名前は知らない。おそらくこの花がポストコスモスなのだが、情報がない。調べれば花の名は分かるかもしれない。それでその花の名をもし知っていたとすれば、そこからのイメージで、違った印象が出来てしまう。
 名は知らないが、コスモスに代わる高橋流秋の花になるのだが、花名が分からないので、言葉にならない。
 その花はきっとポピュラーな花だと思うので、誰かに聞けばすぐに分かるはずだ。しかし名を聞くのが怖い。
 無知識の状態で、よかれと思う花のままの方が好ましいためだ。その花は背が低く、地面すれすれで咲いているが、タンポポよりは上背がある。そして結構長く咲いている。だから、ポストコスモスになり得る花だ。
 ただ、この花も、そしてコスモスも、秋日和でないと駄目だ。
 高橋は菊の花をあまり愛でないが、野菊のように地味に咲いていれば好感度は高くなる。しかし、それでもコスモスには勝てない。
 ただ、西日を受けた菊はかなり絵になる。夕日が沈む寸前の菊は好ましい。
 コスモスは秋日和で、怖いほどの青い空がいい。
 それらは高橋のパーソナリティーがなせる世界だが、だからどうだと言うことではない。
 
   了


2012年11月4日

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