小説 川崎サイト

 

ライフワーク

川崎ゆきお


「さて、どうするか」
 佐山はいつもそんなことを呟いている。ここ数年、特にやるべきことがない。だから、その日、やるべきこともない。そのため、それを自分で決めないといけない。自主的に。
「ライフワークを作っておけばよかった」
 それなら、やることが出来、時間が足りないほどスケジュール表を埋めることが出来る。しかし佐山は既にビジネス手帳やシステム手帳を買っていない。
「自主性だな」
 特に予定はないのだから、好きなことが出来るはずなのだが、特にやりたいことがないため、何もしていない。
「何もしていないことをやっている」
 しかし、それでは退屈なので、何らかのことで、時間を埋める必要がある。それで、テレビばかり見ている。これは意外と飽きない。ただ、受け身一方で、こちらから、何かを仕掛けて、その結果を得るとかの美味しさがない。ただの傍観者であり、見学者だ。
「だから、ライフワークが必要なんだ」
 それで、佐山は反応が期待できるゲームをやり始めた。これは自分のとった行動で、反応が違ってくる。物語そのものは大して変わらないが、日々変化がある。
 敵を倒すと経験値が溜まる。すると強くなり、より強い武器を扱うことが出来る。
 確かにこれは反応がある。やればやっただけの結果が出る。
 だが、それはゲームなので、遊んでいるようなものだ。それ以前に、これは果たして現実なのかどうかだ。
 ゲームをやっていることは現実だ。夢を見ているわけではない。現実に似ている。
 ゲームをやっていることは現実だ。ゲーム世界は非現実だが、ゲームをやっている時間は現実の時間だ。そのため、ゲームをやっていると現実の時間が過ぎていく。だから、時間はそれでどんどん埋まっていく。
 佐山はそれで、居ながらにしての山野や村々を駆け巡り、謎を解き、多くの財産を得た。この世界は現実の時間と重なるが、現実の野山ではないし、現実の財産ではない。
 しかし、実際に山に登った気になる。本物の山に登る気のない佐山にとっては、これはこれで有り難い体験だ。
 だが、本当の山ではない。
 そういう問題はあるものの、確実にゲームの中のキャラクターは成長している。
 さらに、手強いモンスターを倒したときなど、達成感まで味わえる。
「しかし、ゲームじゃないか」
 とは思うものの、何もしないで、テレビばかり見ているよりも、自分らしい変化が楽しめる。さらに自分のペースで進んでいける。
 佐山はこの種の無料で遊べるオンラインRPG系ゲームとの相性がよかったのか、それがライフワークのようなものになった。しかし、現実は何も変わらない。
 だが、本当のライフワークをコツコツとやっていたとしても、それほど現実は変わるものではない。どうせ中途半端なことで終わってしまい、それがもう最初から見えているので、やる気が最初からないのだろう。
「ないよりまし」
 佐山はそう思い、とりあえず何かをしているというネタだけは作ることが出来た。
 無駄に時間を浪費していることになるのだが、消費するネタがないのなら、仕方がないだろう。
 
   了


2012年11月24日

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