小説 川崎サイト

 

夜の静寂

川崎ゆきお


 夜のしじまがある。静寂だ。明かりがないと暗い。そして、多くの人は、もう寝静まっている。店のネオンも消える。コンビニなどは深夜でも営業しているため、人の気配はあるが。
 夜は夜の世界のようなものがあり、これは毎夜訪れるので、別世界というわけではない。
 しかし、昼間に比べ圧倒的に人の気配は減る。
 人がいないわけではないが、人という天敵が少なくなったことは確かだ。そんなことを思うのは、人ではない生き物かもしれない。もしかすると生き物ではないことも。
 昼間でも、人けの少ない山や林などに入り込むと、自分以外の人間がいないことになり、これは少し寂しい。野山には様々な生物がいるので、自分一人がそこにいるわけではないが。
 深夜と深山は似ている。深山は最初から深夜のように、人の気配がない。だから深山の深夜になると、かなり怖いかもしれない。
 深夜でも人の気配があると、安心する。真夜中に起きているような人間なので不気味なのだが、人間の範囲内にいる。話せば分かる関係だ。同じ土俵の上にいる。
 昼間の通りも、夜の通りも、同じ道だ。今では明るいか暗いか程度の違いで、市街地では常に車が行き交っている。ただ、町から離れるに従い、深夜の交通量も少なくなり、一台も走っていないこともある。特に用事がないのだろう。
 誰もいない道路の真ん中を、夜なら歩けそうだ。しかし、そんな用事はないので、また、そんな行為をする必要はないので、しないだけ。
 そんな場所を見ていること自体、妙だ。深夜の町が妙なのではなく、その観察者が妙なのだ。
 怖いのは深夜ではなく、その人なのだ。
 夜のしじま。それは人の気配が減り、暗いだけではなく何かが起こりそうな風景だ。しかし、風景だけでは何も起こらない。
 
   了


2012年11月29日

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