小説 川崎サイト

 

最短のドア

川崎ゆきお


 冒険家が地図を手に入れた。地下ダンジョンのマップだ。
 冒険家はその場所に記憶があった。一度入ったことのある地下室だった。
 地下室へ下りると、四方が壁とドアの部屋に出る。
 そこには大きなコオロギに似たモンスターが無数おり、それを倒すのが精一杯で、複数のドアなど見ていない。とりあえず、近くのドアを開けて、脱出した。
 その四角い部屋にはまだドアがあったのだが、確認していない。ドアを開けると壁だったりする。ドアだけを壁に貼り付けてあるのだ。また、開かないドアもある。それらを一つ一つ確認するのが面倒だし、大コオロギの群れからいち早く逃げたかったので、無視したのだ。
 冒険家は、それらのドアがどんなものかを経験上知っていた。ドアの向こうが行き止まりだったり、すぐそこに落とし穴や、針の絨毯が敷かれていたりする。
 幸い冒険家が選択したドアは、普通の通路だった。
 結局このフロアから下の階へ下りる階段近くに、巨大な蜘蛛がおり、それを退治することで、下へ行くことが出来た。話としては簡単だが、そこへ辿り着くまで、何度も死にかかっている。それら戦闘シーンはここでは省略する。なぜなら、よくあるトラップや、倒そうと思えば、何とか倒せる程度のモンスター達なので、敢えて話すようなことではない。
 それよりもこの地下ダンジョンのマップだ。
 それを手に入れたのは、このダンジョンをクリアしてからのことで、最後にやっと全体の地図が分かった。
 最初から、それを入手しておれば、冒険にはならなかったのかもしれない。知らない闇に向かってこそ冒険が成立する。
 その地図を見て、冒険家は苦笑した。絵地図が下手なのではない。最初降り立った部屋のドアだ。その正体が分かったからだ。
 その中の一つのドアを開けると、すぐに下へ行ける階段がある。蜘蛛とは距離が離れており、気づかれないうちに下へ行けるのだ。これで、クリアだ。
 つまり、冒険家は長い距離を歩いたのだが、そのフロア内をぐるぐる回っていただけのことだった。
 近道は最初から用意されていたのだ。そのドアさえ開ければ、すぐに下へ行ける。
 その最初の部屋には確かに大コオロギがいた。しかし動作がのろく、それほど強い相手ではない。ただ、囲まれると厄介なので、早くその場を逃れたかったのだ。それに冒険が始まったばかり、これからなのだ。大コオロギは一匹相手なら簡単に倒せた。ここで手応えを感じたのだ。この程度のモンスター相手ならやっていけると。
 確かに複数のドアがあることは気になったが、まさか即クリアのドアがあるとは思えなかった。
 それにまだある。冒険家はもっと冒険したかったのだ。だから、早く終えてしまえるドアをたとえ見つけていても、パスしただろう。
 このゲーム作者は、解決策はすぐ身近にあると、言いたかったのかもしれないが、早すぎるのだ。
 出発点即出口なのだから。
 
   了

 

 


2012年12月9日

小説 川崎サイト