小説 川崎サイト

 

刺激する道

川崎ゆきお


 暇を持て余している高橋は、だからといって刺激を求めて外に向かうわけではない。といってネットなどで暴れたりもしない。消極的なのだ。
 そんな高橋が、一日か二日、場合によっては一週間以上持つような刺激物を見つけた。それは物と言えるかどうかは分からないが。バーチャルなものではなく、また想像を楽しむような絵空事でもない。
 それはすぐそこにあった。コンビニがすぐそこにある。距離は近いのだが、車のすぐ横を歩くような車道が嫌なので、裏道を通っていた。細い道だ。車も入れるので、これも車道といえば車道だが、ダンプカーなどは無理だろう。
 この道を抜けると大きな車道沿いのコンビニに出る。刺激物とは、この細い道なのだ。
 住宅地の中を斜めに走っている。この道だけが角度が違うのだ。その細い道はコンビニのある車道と交差し、その先もまだある。
 高橋は自分の家から住宅地の道を通り、その細い道に乗り、コンビニまで行く。これは近道なので、それだけのことだ。ただ、斜めに走っていることが気になることと、細かく曲がっていることだ。直線ではなく、何かを避けるようにして続いている。住宅地の道より古くからあったことが、これで分かる。道の性格が全く違うのだ。
 高橋にとり、この道は生活道路だ。一瞬だけその道に乗りる。コンビニ道なのだ。
 では、何が刺激なのかというと、数百メートルしか、知らないことだ。家からその道に乗り、北側へ行くのだが、南側は知らない。また、コンビニから先も。
 おそらく昔の道だとは想像がつく。
 それで初日は北側の未踏地へ向かった。と、いってもどういう場所なのかは近所なので知っている。
 しかし、昔のこの町を貫いていた幹線道路であることはすぐに分かった。なぜなら、神社の前にすーと吸い込まれるし、そこを回り込むように、次のお寺のど真ん前を通過する。串刺しなのだ。
 さらにその道と交差する路地は、結構古い家の門へと繋がっている。
 その先は別の町に入り込むまでの街道のような感じで、新興住宅地が続いている。おそらく昔は田畑だったのだろう。町と言っているが、実は村なのだ。そして、村を出たあたりに祠や古木がある。村はずれのお地蔵さんだろうか。
 そこから先は駅へ向かう。幹線道路はバス道となり、駅へダイレクトに延びている。
 しかし、この村の道はちょっと角度が違う。わずかだが駅を向いていない。少しずれているのだ。
 高橋は、その駅前をよく知っている。最寄り駅のためだ。だから、徒歩でも自転車でもよく来ている。ただし、この細い道は無視していた。なぜなら、駅から離れるためと、直線ではなく、曲がりくねっているため遠回りになる。だから、使っていない道だ。
 その道が大きく蛇行している箇所がある。池があった場所だ。今は埋め立てられている。そのあたりで、道を失いかける。公団住宅があり、その敷地内に入るためだ。そこで、道は途切れる。
 しかし、その公団住宅の向こう側へ回り込むと、道は続いていた。
 駅に近づいている。
 しかし、別の方角へと道は進んでいる。かなりずれているのだが、古い家が目立つようになる。この道が実働していた頃の、村へ入ったのだ。
 駅から離れているが、昔の中心部だった場所を串刺しし始めた。大きな寺があり、自治会の会館のようなものが現れる。消防団もある。もう取り壊されたが、火の見櫓の跡も見つかる。駅周辺をよく知っている高橋だが、ここまでは来ていなかった。
 昔は、駅前ではなく、この場所が中心部分だったのだ。
 昔あったであろう大きな村を、この道は貫き、さらに別の村へ向かうであろう道がある。
 しかし、さらに進むのはもったいないと高橋は考え、その日はそこまでとした。
 これで、しばらく刺激に困らない。
 
   了


2012年12月16日

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