小説 川崎サイト

 

ゲームの中の幽霊

川崎ゆきお


 それはモンスターなのだが、そうではないようにも思える。それを見たのはモンスターがいる場所だ。いつもいるモンスターとは別のモンスターがいたのだ。ただ、それはモンスターかどうかはまだ分からない。
 岸本は久しぶりにオンラインゲームをやっていた。モンスターを倒しながら旅するRPGゲームだ。
 五年ぶりだ。
 ゲームの中の町は変わっていない。いつもいる武器屋の親父はそのままで、同じことをいつも喋っている。「武器だけに頼っちゃいけない」と。
 防具屋の女主人は「金を惜しんで命を落とすな」と。
 岸本は、この変わらぬ様子に、安堵感を覚える。懐かしい場所に帰ってきたような。
 このゲームは五年前オープンしたとき、町の広場は足の踏み場もないほど人で溢れていた。市が立ち、個人商店が犇めいていた。
 その広場は祭りの後のように静まりかえり、ゴーストタウンと化している。
 岸本はいつものように雑貨屋でクエストを貰い、雑魚キャラ狩りに出かけた。
 町の門を出ると、のどかな草原で、草むらや田畑が広がっている。少し行くと低い丘があり、そこから平野部を見下ろせた。
 モンスターは、レベルの低い雑魚キャラで、レベル1のモンスターに倒されるようなことはまずない。
 モンスターと言ってもイノシシのような動物や空飛ぶ大きな虫だ。
 それらはモンスターなのだが、そうではないものが横切った。岸本はこのゲームをほぼクリアしている。そのため、登場するモンスターを知っている。しかし、そのどれにも当たらない。
 また、この平原部には二種類のモンスターしか出ない。
 岸本はその妙なモンスターを追いかけた。丘の下にある岩場へ入り込んだものと思われるのだが、姿がない。
 その姿だがはっきりと見たわけではない。同じようにプレイしているキャラだろうか。
 岩場でレーダーを見る。敵がいると赤い点で示される。近くに二つの点がある。周囲を見ると、イノシシと虫がいる。
 プレイヤーは緑の点で示される。岸本と同じように狩りをしているキャラがいるのなら、それで分かる。
 岸本は岩場を回り込むと、さっと走り去ったものがある。
「こいつだ」
 レーダーには映っていない。だから第三の何かだ。
 先ほど見たそれは、小さかった。モンスターにしては小さい。また、プレイヤーキャラにしても小さい。それほど小さく身長を短くできないためだ。
「ゲームの中の幽霊」
 岸本は噂では聞いていたが、実物を見るのは初めてだ。ゲーム中に出てくるシステムキャラでもなく、誰かが作ったキャラでもない。ゲーム世界の中で沸くキャラなのだ。
 確かにこのゲームは五年経過し、ほとんど人が来なくなってから久しい。そのあたりで沸くとの噂がある。
「機械の中の幽霊」
 岸本はそれを見たことになる。
 そして、岩場をくまなく探していると、石の間に挟まっているモンスターを見つけた。小刻みに動いている。小さな尻と尻尾が見える。
 岸本は攻撃を加えるが、攻撃できないタイプのようだ。するとモンスターではない。
 次に岸本はバトルモードに切り替えた。これはプレイヤー同士の戦闘が可能になるモードだ。すると、攻撃が可能になった。
「誰だろう」
 ソードを一振りする。敵の情報が見えない。ターゲットとしてとらえていないのだ。
 岸本は、さらにその周辺を調べる。
 岩場から少し離れた窪みに、死体があった。岸本と似たような扮装だ。だから、戦士だろう。ということはプレイヤーキャラなのだ。しかし死体はリアルだ。白骨化していた。こんなものは今まで見たことがない。
 すると、あの小さな尻と尻尾の幽霊は、ペットということになる。
 主を亡くしたペットが、その近くでうろうろしていたのだ。
 しかし、それはあり得ない。なぜなら、先ほど、そのペットは岸本の前を横切ったではないか。
 それに倒れたまま放置しても、消えるはずだ。そこで消えなくても定期メンテナンスの時、消えるはず。
「別のゲームになっている」
 これも含めてゲームなのだ。そういうゲームに作り替えられていたのだろうか。
 つまり、廃墟ゲームとしてリニューアルされたのかもしれない。
 岸本は怖くなってきた。五年前のゲームは五年前のままではない。多少の変更はある。しかし、ここまで変更する必要はない。
 やはり、古いゲームで、しかも誰もやらなくなったオンラインゲームに出るというあの噂。もしそうなら貴重な体験だ。
 
   了


2012年12月23日

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