小説 川崎サイト

 

眠い話

川崎ゆきお


「しかし、その後の世界は、何ともなからなかった」
「何かあったの。その後の世界って、今の世界のこと?」
「ああ、何でもない。言ってみただけのことだ。こういうのを一度言ってみたかったのさ」
「それで、何がしかしなの」
「それを話し出すと長い。凄い物語だ。聞くかい」
「あ、いいです」
「それでもうこの物語は終わったんだ」
「何ともならない話なんでしょ」
「そう、結末は何ともならないままで終わるが、それは物語の終わりであっても、まだその世界は続いておる」
「世界は終わっていないんだ」
「世界が終わっておれば、こうして話など出来ん」
「ここもその世界の中の話?」
「いつも暮らしている、この世界だよ」
「じゃ、その物語の続きはどうなるの」
「終わったから、今度はまた別の物語が始まる」
「聞かせて」
「だから、それはまだ始まっておらん」
「じゃ、ここはどこ」
「世界じゃ」
「物語のない世界」
「もう少し待てば、また物語が始まるかもしれん」
「今はまだ始まっていないんだね」
「さあ、何処を始めとするかはよく分からんが、終わったばかりなので、その余韻を楽しめばいい」
「でも、何ともならなかった話なんでしょ。あまり良いお話しじゃないから、余韻と言っても、悲しそう」
「物語が終わり、そしてすぐに物語が始まると、休憩する時間がない」
「じゃ、今は休憩中?」
「休んではおらんが、まだこれといって何も始まっておらんので、わざわざ語ることではない。それに、ここを物語の始めとしてしまうと、二人の会話から始まることになる」
「いいじゃない。それで」
「何事も始まり方、始め方が肝心でな。それで物語が決まるというものだ」
「何が決まるの」
「どういうお話になるかだ」
「じゃ、私とお爺ちゃんが主人公なんだ」
「それでは何も始まらん」
「始めてもいいじゃないの」
「その物語は、こうして話しているだけの物語になる。退屈だし、眠くなる」
「眠い話好きだよ」
「どうして」
「適当に聞いてられるから」
「ああ、なるほど」
「感心した?」
「うむ」
「そんなことでいいのかなあ」
「いいんだ。物語が終わったばかりなので、疲れそうな話は聞きたくない」
「私はお爺ちゃんと話していると疲れるけど」
「どうしてかな」
「知らない」
「ああ、そうか」
「納得したの」
「うむ」
「そんなことでいいのかなあ」
 
   了


2013年1月9日

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