小説 川崎サイト

 

不正アクセス

川崎ゆきお


「もしもし」
「はい長田です」
「ああ、長田さん。無事でしたか」
「はいはい」
「最近ログインしていないのですか」
「何が」
「いつもの場所ですよ」
「ああ、あそこねえ」
「最近何も発言がないので、心配していたんですよ」
「ああ、元気ですよ」
「何か私達の発言で、問題がありましたか」
「いえ、別に」
「気に障ったらごめんなさいね。夜はビールを飲みながらコメントしていますので。失礼があったらお詫びします」
「いや、そんなことはありませんよ。いつも楽しくやり取りしています」
「写真もアップされていないので、辞められたのですか」
「いや、写真は毎日写していますよ。最近またデジカメを買ったので、張り切ってます」
「でも、一週間ほどずっと沈黙状態なので、気になります。それで失礼ですが、お電話した次第です」
「それはわざわざありがとう。皆さんお変わりありませんか」
「見ていないのですか」
「ああ」
「もう、辞められるのですか」
「何を」
「だから、ソーシャルネットワークですよ」
「ああ、あそこ、そんな名前でしたか」
「だから、いつもの場所ですよ。長田さんがいつも書き込んだり、写真をアップしたり、コメントを付けたりしていた、あのページですよ」
「ああ、辞めたわけじゃないんですがね」
「他のことで忙しいのでしょうか」
「暇です」
「パソコンの修理中とか」
「いや、無事です。ネットも繋がります」
「じゃ、また、見に来て下さいよ」
「そうなんですが」
「やはり、問題がありましたか」
「それが」
「おっしゃって下さい」
「あそこねえ」
「はい」
「不正なアクセスがあったので、パスワードを変えて下さいと言ってきたんですよ」
「ああ、そうなんですか」
「ずっと、ログインしたまま、一日中いましたから、それでかもしれません。それで、パスワード変えたんです」
「はいはい」
「そしたら、また誰かが不正にアクセスしてきたというので、また変えたんです」
「はいはい」
「その後、また来ました」
「はい」
「それで、何度も変えているうちに……」
「分からなくなったのですね」
「そのときは覚えたんですがね。忘れました」
「それは、教えてもらえますよ。パスワード」
「そうなんですが、ここは自力で思い出して、打とうと思いましてね」
「まだ、思い出せないのですね」
「はい」
「何か、安心しました。そういうことだったのですか」
「はい」
「我慢しないで、教えてもらえますから、大丈夫ですよ」
「はい」
 しかし、その後も長田はアルファベットと数字を何度も何度も打ち込み続けた。
 自分で自分のアカウントへ不正アクセスしているようなものだった。
 実際には、二度目に打ち込んだので合っていたのだが、それを見逃していたようだ。
 
   了

   


2013年3月18日

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